
電子帳簿保存法やFISC基準・監査への対応 ―金融業界が直面する「電子契約の壁」をどう乗り越えるか
DXが進展する一方で、銀行を中心とする金融業界では規制や特有の商習慣により契約業務の電子化が課題となっています。2024年の改正電帳法の定着や、目前に迫る2027年の手形完全電子化を見据え、電子化対応は待ったなしの状況です。本記事では、FISC基準や監査対応など「3つの壁」を挙げて解説し、Docusignのシステムを活用した解決策を提案します。

金融業界における契約の電子化を阻む3つの「壁」
新型コロナウイルスの感染拡大以降、多くの企業で非対面や非接触による業務改革が加速しました。これらはデジタル化を推し進め、DXを加速させる要因になりました。しかし、部分的にDXの波に乗り遅れている業務も残っています。
例えば、契約に関する業務は、以前から紙に依存しやすい分野です。銀行を中心とする金融業界では、融資や保証などの契約文書は長期間の保存と厳格な管理が求められます。業界特有の規制や制度も存在します。これにより、契約業務における紙から電子データへの移行は慎重な判断が必要とされてきました。
電子帳簿保存法は、2024年の改正で完全施行により電子取引データの電子保存が原則義務化され、真実性や可視性の保存要件を満たすことが必須となりました。法改正から2年が経過しましたが、銀行を中心とする金融業界では、電子帳簿保存法、FISC基準、監査への対応といった解決すべき課題が残っています。銀行が電子契約システムの導入を果たすために乗り越えるべき課題を詳しくみていきましょう。
銀行を中心とする金融業界における電子化の問題点
契約の電子化に向けて障壁となっているものはどこにあるのでしょうか。障壁の1つ目は、法人取引で長年使われてきた手形・小切手といった、旧来型の取引手法の残存です。全国銀行協会は2022年11月、各地に電子交換所を稼働させましたが、これはあくまで過渡期の措置です。2027年4月までに電子交換所は廃止され、手形の代わりにインターネットバンキングによる資金移動や印紙税なしで債権を取引できる「全銀電子債権ネットワーク」へ移行することになります。これにより紙ベースの商慣習は物理的に維持できなくなります。
手形・小切手において、紙ベースからデジタルデータへ移行する背景には、利用する企業の間で、考え方に変化が起きているとみられます。全国銀行協会が企業の経理・財務部門担当者を対象に行ったアンケート調査(※1)では、手形を使っている企業の中で振出側の8割、受取側の9割が「やめたい」意向を示しています。小切手では振出側の6割、受取側の8割が同様の意向を示しています。
こうした実態を受けて、全国銀行協会は2026年度末までに手形や小切手の全面的な電子化に舵を切りました。今後、契約業務の電子化を加速させるものとみられます。
2つ目の障壁は、情報セキュリティの問題です。銀行は、法人・個人にかかわらず顧客情報保護に厳しいルールを設け、厳格に管理しています。例えば、特定の取引先の情報開示は、原則として取引のある支店に限られています。しかし、業務上必要と判断すれば、適切な範囲で他店でも閲覧できます。電子契約に移行した場合は、こうした取引先情報に対するコンプライアンス対応を定める必要があります。
障壁の3つ目は、銀行を含む金融業界独特の契約形態です。融資や保証などの契約において、一般的な契約書を取り交わすのと同時に、念書や特約書など数多くの書類に署名することがあります。
金融庁は「電子契約の監督指針」のなかで、技術要件や法的基準・運用ルールを最新化することを強調しています。銀行などの金融機関には、従来の紙や押印中心の契約から電子データによる契約へ安全に移行し、信頼性と実用性を高めることが求められています。

電子帳簿保存法が銀行の契約業務に与える影響
1998年に施行された電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類を電子データで保存する際の要件を定めた法律です。これらの対応は、企業にとって容易ではありませんが、銀行などの金融機関においては重要性が高くなります。銀行では保存対象となる文書の範囲が広く保存期間も長期に及びます。そのため、真正性・可視性・検索性を安定的に維持できる仕組みが不可欠です。
紙の契約書なら、原本を金庫や書庫で保管することで「改ざんされていない」という前提が暗黙のうちに成立していました。しかし電子契約の場合、その前提はシステムによって証明されなければなりません。監査などで「なぜこの電子データが正しい契約書だと言えるのか」を説明できることが重要になります。 2023年に法改正があり、電子取引データの保存要件が大きく緩和されました。税務調査での取引データ検索の要件免除対象が、売上高1,000万円以下から5,000万円以下の事業者に拡大されました。また、中小企業の電子化負担が軽減され、スキャナ保存の技術要件が緩和されています。
FISC基準という銀行特有の判断軸
銀行が電子契約を検討する際に避けて通れないのがFISC基準です。公益社団法人金融情報システムセンター(※2)は金融情報システムにおける情報セキュリティ対策の指針を示しています。電子契約システムも銀行の情報システムの一部としてFISC基準によって評価されます。
具体的には、アクセス権限管理が適切に行われているか、利用者認証は十分な強度を持っているか。また、操作ログは漏れなく取得・保管されているか、障害発生時の対応や復旧体制はどうなっているかといった点が確認されます。これらは銀行システムでは共通した要件であり、電子契約も例外ではありません。
銀行監査の核心にある「監査証跡」
銀行を含む金融機関が、電子契約に慎重になる大きな理由は監査対応でしょう。内部監査、外部監査、さらには金融当局からの確認まで見据えると、「後から説明できる状態をどう担保するか」が極めて重要になります。その中心に位置するのがシステム監査を行う際の資料として用いられる監査証跡です。
電子契約における監査証跡は、契約ライフサイクル全体を通じて発生するすべての操作や事象を時系列で記録・保存したものです。具体的には、契約書を作成した日時や作成者、署名依頼が送信された履歴が含まれます。署名者が文書を閲覧した日時、署名した正確な時刻、使用された認証手段、IPアドレスや端末情報などもこれにあたります。
さらに重要なのは、署名完了後の契約書データに対してハッシュ値(データから作る内容確認用の短い数値)が付与されることです。これは、その後一切改変されていないことを技術的に証明するものです。これらの情報が契約書と不可分で管理されることが重要です。電子契約における監査証跡の要件で求められる第三者による検証可能性が確保されます。
紙よりも「説明しやすい」電子契約という視点
適切に設計された電子契約は、監査の観点において、電子契約の方が説明しやすい場面は少なくありません。紙の契約書では「誰が、いつ、どの順序で押印したのか」を正確に追跡することは困難でした。一方、電子契約では操作履歴が自動的に記録され、客観的な証跡として残ります。
監査では担当者の記憶や経験に依存した説明よりも、仕組みに基づいた説明が重視されます。監査証跡が体系的に整備されていれば、担当者の異動や時間の経過に対しても同じ説明ができます。銀行を中心とする金融機関にとって大きな安心材料になります。
金融機関に最適なシステムとしてのDocusignソリューション
こうした制度対応や監査対応をすべて自社で構築することは、現実的には大きな負担です。そこで制度要件を前提に設計され、実績を重ねた電子契約プラットフォームを活用する選択肢が有効です。
こうした課題に対し、Docusignは単なる電子署名ツールではなく、契約業務全体を高度化するプラットフォーム「Docusign IAM(Intelligent Agreement Management)」を提供しています。
Docusign IAMは、契約プロセスのすべての操作ログ(いつ、誰が、どこで署名したか)を「監査証跡(完了証明書)」として自動的に記録・保存します。これにより、監査人への説明責任を容易に果たせるだけでなく、FISC基準が求める厳格なアクセス管理や、電子帳簿保存法が求める検索性・非改ざん性も、システム要件として標準で満たすことが可能です。
実際、DocusignはFISC(金融情報システムセンター)の会員企業として、FISC安全対策基準に準拠した内部統制を構築・運用しています。また、ISO 27001などの国際的なセキュリティ認証も取得しており、日本の金融機関が求める厳格なセキュリティ要件を満たしています。
さらに、AI機能が盛り込まれたプラットフォーム保管庫である「Docusign Navigator」を活用すれば、保管された膨大な契約書の中からリスク条項を自動検知するなど、コンプライアンス体制をより強固なものへと進化させることができます。
「導入しても安心」という判断につなげるために
電子契約は、単なる業務効率化のツールではありません。銀行を含む金融業界にとっては、内部統制とリスク管理を支える基盤の一部です。電子帳簿保存法、FISC基準、監査対応という3つの壁は、正しく理解し適切なシステムを選択すれば乗り越えることができます。
監査証跡が明確に残る電子契約は、紙よりも説明しやすく、統制しやすいという側面があります。その意味で、Docusignは銀行が安心して検討できる最適なシステムの1つ
として位置づけることができるでしょう。

##出典
※1 一般社団法人 全国銀行協会 アンケート調査「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた金融界の取組状況について」 (2024年8月公表、有効回答1,036件) https://www.jaw.or.jp/wp/wp-content/uploads/2024/08/全国銀行協会説明資料.pdf
※2 公益社団法人金融情報システムセンター(The Center for Financial Industry Information)https://www.fisc.or.jp/publication/guideline_pdf.php

新卒でSalesforceに入社し、コンテンツ/ブランド/イベントマーケティングに従事。顧客事例やブログの編集、フィールドイベントの設計・運営を担当。2025年よりDocusignでContent Marketing Managerとして、日本市場向けコンテンツの戦略立案・編集・制作(ローカライズ含む)を担い、インテリジェント契約管理(IAM)の価値をわかりやすく発信。
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