
新リース会計基準への対応は“初回で終わらない”——企業の経理・財務が今こそ見直すべき“契約の土台”とは
「うちの契約管理、これで本当に大丈夫…?」
2027年に迫る新リース会計基準。形式対応では乗り切れない“契約の見直し”を、今こそ始めるべき理由とは——。

新しい会計基準が問いかける「あなたの会社の契約管理は大丈夫か」
2027年4月以降に始まる事業年度から、日本の企業会計に大きな変化が訪れます。企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した新リース会計基準では、これまで費用処理で済ませていたオペレーティング・リースも原則として貸借対照表に計上されることになります。つまり、資産も負債も膨らみ、ROAやROIC、自己資本比率といった経営指標が“見た目上”変わるのです。
ここで問われるのは、単なる会計処理の知識ではありません。会計処理の知識よりも問われるのは、「現場のリアルな把握力」です。契約書がバインダーに眠っていないか。更新期限を誰が追えているか。こうした“見えない負債”(いわゆる隠れリース)が、今まさに企業の信頼を試す時代に入りつつあります。
この改正は法対応を超え、経理・財務部門が“契約”という企業活動の根幹を見直す絶好の機会でもあります。本稿では、新リース会計基準を“企業の経営基盤を再構築するチャンス”として捉え、その第一歩である「契約管理の土台づくり」について考えていきます。

なぜ「契約がすぐに見つかる状態」が出発点なのか
新基準対応で最初の壁となるのは、「対象契約の洗い出し」です。IFRS(国際会計基準)16適用時、多くの企業が最初の難関として契約洗い出しに直面しました
“リース契約”という名称が付いていない契約書でも、実質的に特定の設備や不動産を継続的に使用しているものは対象になる可能性があります。
例えば:
不動産の賃貸借契約
設備利用契約書
業務委託契約書
保守サービス/メンテナンスの契約書 など
これらは部署やシステムごとにバラバラに保管され、Excelの一覧表で管理しているケースも少なくありません。
監査を目前にした経理担当者が、総務やIT、営業部門に「最新版の契約書を送ってほしい」とメールを飛ばす。そのやり取りを追うだけで数日が過ぎる——これは多くの企業で考えられる“あるある”の光景です。こうした状態では、基準対応どころか、契約変更や更新のたびに抜け漏れや二重計上のリスクが生じます。
だからこそ、出発点は“契約をすぐに見つけられる状態”をつくること。契約書を一元管理し、全文検索や属性(項目)検索で該当契約をすぐ特定できるようにする。ここを整備するだけで、対応スピードも正確性も劇的に向上します。
2025〜2027年ロードマップ:まずは2026年に“一元管理+検索性”を完成させる
とはいえ、ここまで見てきたような契約の洗い出しや管理体制の整備を、短期間で一気に進めるのは現実的ではありません。実際の現場では、契約の散在状況も部門ごとに異なり、社内調整やシステム導入にも時間がかかります。
だからこそ、いまから着実に段階を踏んで進めていくための「長期的なロードマップ」が重要になります。そしてその第一歩となるのが、2025年の契約棚卸しです。

■ 2025年:棚卸しと影響試算の年
2025年は、まさに“契約棚卸し元年”です。最初の1年で“どれだけ現状を掘り起こせるか”が、2年目以降の負荷を決定づけます。契約情報の散在を洗い出し、どの契約がリースに該当するかを整理し、財務影響を試算。監査法人と前提条件(割引率、短期契約の扱いなど)をすり合わせる——。
地味に見えて、最も価値のある第一歩です。
■ 2026年:“一元管理と検索性の確立”
この年が最も重要な転換点です。
紙・PDF・電子契約が混在する状態を抜け出し、契約を中央保管庫(Single Source of Truth)に集約し、全文検索と属性検索が機能する環境を本番稼働させます。たとえば、「契約種別」「相手先」「期間」「更新条件」「対象資産」などで検索すれば、必要な契約を瞬時に特定できるようにする。ここを整えることで、経理・財務・監査の三者が同じデータに基づき、同じスピード感で議論できる体制が実現します。
加えて、2026年の準備段階で意識しておきたいのが、「財務指標の“見え方”の変化」です。新基準では、これまで表に出ていなかったリース契約が資産・負債として計上されるため、表面上の財務指標(ROAや自己資本比率など)が“悪化したように”見えるリスクがあります。
経営層や投資家から、
「なぜROAが下がるのか?」
「負債が増えたように見えるが、問題なのか?」
といった問いを受けたとき、即答できる体制づくりは、会計部門に対する信頼を支える重要な要素です。単なる制度対応ではなく、こうした“説明責任”も含めて準備しておくことが、2026年の質を左右します。
■ 2027年:再測定を“日常業務”にする
新基準が本格適用される2027年。ここからは、契約変更や更新のたびに再測定・再計上が発生します。つまり、“終わらないプロジェクト”の始まりです。この段階で求められるのは、属人化ではなく、仕組みとしての継続運用です。更新や条件変更を自動検知し、通知・再測定プロセスへつなぐワークフローの整備が鍵となります。
このように、新リース会計基準への対応は、単発で終わるものではなく、時間をかけて基盤を築き、継続運用の仕組みを育てていく長期的な取り組みです。
2025年に現状を棚卸し、2026年に検索性と一元管理の環境を整え、2027年から再測定を日常的に回していく——この3年間のステップが、形だけの法対応ではなく、経理・財務が企業価値を守る“仕組み”へと変えていく道筋となります。
契約管理の“土台”をつくるために
多くの企業で課題となるのが、「最初の対応で終わってしまう」こと。Excel管理やメール連絡では、担当者が変わるたびにルールがリセットされ、更新漏れや再計上ミスが発生します。これは企業規模が大きくなるほど急速に難度が上がります。
契約の更新日を担当者が把握していない
条件変更の連絡メールが担当者のメールボックスに埋もれる
過去版を参照して誤った再測定に繋がる
更新後の契約が登録されず、最新版が不明になる
こうした“人依存の隙”は、どれだけルール化しても必ず発生します。だからこそ、人に依存しない仕組み化、つまり繰り返し発生するプロセスが自動で回っていく環境を整備することが不可欠なのです。
Docusignは、契約をライフサイクルで捉え、“締結して終わり”ではなく、“契約を経営の資産として活かす”仕組みを提供しています。
本稿では、その2つの要:「探せる土台(Navigator)」と「回る仕組み(Maestro × DeepDean)」について、まずは「探せる土台(Navigator)」についてご紹介します。
“探せる”を当たり前にする——Navigatorが支える契約基盤
Docusignと聞くと、「電子契約の会社」と思われるかもしれません。
確かに、私たちのeSignature(電子署名)は、契約締結をスムーズかつ確実に行うための代表的なプロダクトです。
しかし、Docusignの本質は「契約のスペシャリスト」。私たちのミッションは、契約をよりスマートに、簡単に、そして信頼できるものにすることです。
そのためにDocusignは、契約の“締結”にとどまらず、“準備・締結・活用”といった契約ライフサイクル全体を支える製品と機能を展開してきました。
リース会計基準への対応でも、こうした“契約を使える状態に整えること”が最初の鍵となります。
中でも、対応の“土台”をつくる中心となるのが、Docusign Navigatorです。

Navigatorは、契約書を単に保管するのではなく、「すぐに見つけられて、内容を把握・活用できる」状態を作るためのソリューションです。特に、リース契約のように更新や再測定のたびに確認が必要な契約においては、正確性・検索性・再現性が重要になります。
以下のような機能を備えることで、対応スピードと監査耐性の両立を可能にします。
一元管理:紙・PDF・電子契約を1つの保管庫に統合し、全社でアクセス可能
→ 各部門の管理負担を軽減し、監査対応のスピードを短縮
全文・属性検索:過去契約を横断的に検索し、「どの契約が対象か」「どの条項が該当するか」を即座に特定
→ Excel管理時の“目視確認”からの脱却
履歴・版管理:いつ、誰が、どこを変更したかを自動で記録
→ 監査時の説明責任を容易に
契約の関係可視化:親契約・増床契約など、関連契約をつなげて把握
→ 契約の全体像を俯瞰し、再測定漏れを防止
Navigatorは、単なる契約管理ツールではありません。それは「会計と契約をつなぐ、信頼の基盤」です。
契約がデータとして整い、検索・比較・共有ができるようになることで、企業はようやく“契約を経営情報として扱う”ステージへと進化することができるのです。
実際にNavigatorを導入した企業では、
といった声が上がっています。
こうした“変化の実感”こそが、会計部門の信頼を支える土台であり、経理DXの確かな第一歩です。

“探せる”の次は“回る”へ——仕組み化で継続運用を実現する
Navigatorで「契約を探せる状態」が整えば、対応準備の基盤はできます。次のステップは、人に依存しない運用体制(仕組み化)です。
契約の所在を把握し、検索・活用できる状態を整えること。それは、会計対応のための“準備”ではなく、企業の信頼を支える“基盤”です。
Navigatorを活用することで、部門をまたいだ契約の散在に終止符を打ち、監査対応や再測定といった変化にもブレずに対応できる「探せる契約環境」が実現します。そして、こうした“探せる状態”が整って初めて、次のステップ——契約変更や更新を“人が気づく”のではなく“システムが知らせる”世界に進むことが可能になります。
次回は、Docusign MaestroとDocusignのパートナーであるファーストアカウンティング株式会社のDeepDeanを活用した「契約管理の自動化と定常運用」についてご紹介します。
新規契約締結前にリース該非を自動判断
オフバランスするための修正案を提示
適切な経理担当者や法務によるレビュー
締結後は会計システムに記録
“契約を探せる状態”が整えば、企業はこうした自動化へと歩みを進められるようになります。
四半期の決算・監査スケジュールを逆算すると、2026年中に“探せる土台”を完成させておくことが最も現実的で、全社の負荷を最小化します。
まとめ:新基準対応は「契約を資産に変える」絶好の機会
新リース会計基準は、確かに企業にとって負荷の大きい取り組みです。しかし、視点を変えればこれは「契約という眠れる資産を、経営判断に活かす機会」です。契約の所在を可視化し、一元管理と検索性を確立し、履歴を残す——それは単なる会計対応ではなく、“企業が自らの取引と資産を可視化する”経営基盤のアップデートでもあります。
「どこに」「どんな契約が」「どのように効いているのか」。
この構造を明らかにできた企業こそが、次の時代の経理・財務をリードしていくのです。

新卒でSalesforceに入社し、コンテンツ/ブランド/イベントマーケティングに従事。顧客事例やブログの編集、フィールドイベントの設計・運営を担当。2025年よりDocusignでContent Marketing Managerとして、日本市場向けコンテンツの戦略立案・編集・制作(ローカライズ含む)を担い、インテリジェント契約管理(IAM)の価値をわかりやすく発信。
Docusign IAMは、ビジネスに欠かせない契約プラットフォームです


