電子署名法第3条Q&A公表後の動きと法人顧客との契約締結におけるポイント
昨今、あらゆるシーンで急速に電子化が進んでおり、契約書に関しても例外ではありません。本記事では、ドキュサイン主催の特別ウェビナー「電子署名がなされた電子契約の証拠力に関する最新事情」から、昨年9月に「電子署名法第3条Q&A」が公表された後の動き、法人顧客との契約で電子署名を利用する際のポイント等について解説します。
近年、あらゆるシーンで急速に電子化が進んでおり、契約書に関しても決して例外ではありません。電子契約には「電子署名」を用いますが、ドキュサインでは電子署名や電子契約への理解を深めていただくために、専門家をお招きしたウェビナーを継続的に開催しています。
本ブログ記事では、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャルカウンセル弁護士の宮川賢司氏を講師にお招きし、2021年4月14日(水)に開催された特別ウェビナー「電子署名がなされた電子契約の証拠力に関する最新事情」(以下、本ウェビナー)の内容をもとに、昨年9月に「電子署名法第3条Q&A」が公表された後の動き、法人顧客との契約で電子署名を利用する際のポイント等について解説します。
電子署名が必要とされる背景と3条Q&A公表後の動き
本ウェビナーの前半では、電子署名の利用を検討する際に知っておきたい法的ポイントを解説し、電子契約であっても形式的な証拠力と実質的な証拠力の両方を確保しなければならないこと、電子署名の種類や電子署名に関する法務省の見解が説明されました。
また、電子署名法3条Q&A公表後の動きとして、電子署名がなされた電子契約の証拠力に関する最新の動向について解説されました。そこで注目されているのが、3条Q&A公表後の動きとなります。
2021年5月12日に成立したデジタル化関連法により、民法、借地借家法、宅地建物取引業法等の規定について電磁的記録での作成も可能とする法改正がなされました。そして、2021年はデジタル庁創設を見据え、商業登記申請や不動産登記申請を含む行政手続等についてもデジタル化が更に進展することに期待が高まっています。
一方、金融庁でも2020年12月に「書面・押印・対面手続の見直しに向けた論点整理」を公表し、金融分野においてもデジタル化が進む見通しです。さらに、内閣府が「地方公共団体における押印廃止マニュアル」を公表したことから、地方公共団体においてもデジタル化が一層進んでいくと期待されています。
また、2021年6月9日、「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」が成立しました。同改正法では、各社のDX計画を主務大臣が認定し「DX投資促進税制」と「財政投融資」を原資とした低利融資を提供します。加えて、上場会社のバーチャルオンリー株主総会の開催を特例的に可能とします。また、産業競争力強化法に基づく特例措置では、認定業者がSMS等を利用してデジタルで行う債権譲渡通知等の効力を認める特例措置が実施されます。
これら一連の動きは、多方面において日本のデジタル化を推進する取り組みとなるでしょう。
法人顧客と契約を締結する場合の諸問題
本ウェビナーの後半では、実際にドキュサインの電子署名を使用して法人顧客と契約を提携する際の設例と問題が解説されました。設例では、「貴社(X)は、新規顧客である法人(Y)と、各種契約(例えば、守秘義務契約、売買契約等)を締結することを検討している」という想定で、貴社(X)は、これらの契約について、事業者型電子署名によって契約を締結することを検討しているとし、契約締結の際に注意すべきポイントが紹介されました。
上記のようなケースを想定し、3つの主要なアプローチが提示されました。
1. 契約類型化アプローチ
(1)契約金額、(2)相手方との信頼関係の有無、(3)個人情報等の機密情報の有無等を踏まえて契約をリスクに応じて類型化し、各類型に適切な電子署名を用いる
2. 総合証拠化アプローチ
契約締結時の電子署名のみならず、契約締結前後の事情を総合的に証拠化することで簡易な電子署名(2条電子署名等)の利用を認める
3. ハイブリッドアプローチ
デジタル化過渡期の対応として、紙ベースの基本契約書を事前に締結し、個別契約を電子契約で締結する
これら3つのアプローチに対して、それぞれの具体例が紹介されました。
1. 契約類型化アプローチの具体例
契約類型化アプローチでは、契約類型を高リスクと低リスクに分類します。「高リスク」に分類される契約類型は、契約金額が多額、相手方との信頼関係がない、個人情報、法人関係情報等の機密情報がある、のいずれかに該当する契約が対象となります。反対に、契約金額が少額で、相手方との信頼関係があり、機密情報もない契約は、低リスク契約類型となります。これらの分類を行った上で、高リスク契約類型の電子契約における対応では、電子署名法3条の適用がある電子署名(3条電子署名)の利用等の安全面を重視した対応を行い、低リスク契約類型については電子署名法2条の適用がある電子署名(2条電子署名)で足りると整理することが考えられます。
2. 総合証拠化アプローチの具体例
総合証拠化アプローチでは、契約締結前後の事情を固めることで高リスク契約類型についても2条電子署名で足りると整理するアプローチとなります。例えば、相手方法人の代表者から担当者への権限委任の確認、契約締結に関する交渉過程の証拠化(電子メールのやりとり等)等を行うことが考えられます。
3. ハイブリッドアプローチの具体例
ハイブリッドアプローチを活用する場面の具体例としては、高リスク契約類型への対応や、相手方企業が契約電子化対応未了の場合となります。具体的な内容としては、次の2つとなります。
特定の相手方企業との間で紙ベースの基本契約書等を代表印押印前提で締結し、その後の各契約を電子契約で締結する
基本契約書等において、電子契約に関する両当事者の契約締結権限や契約締結フローに関する表明保証・誓約事項等を規定し、当該規定違反の場合に損害賠償義務等を定めることで、安心感を高める
これらのアプローチは、電子契約に抵抗のある人にも安心な対策といえます。
最後のまとめとして、低リスク契約類型、その他の社外文書(請求書や領収書等)、社内文書(取締役会議事録等、稟議書等)を電子化することで、業務効率化等、その効果は十分に得られると提唱されています。
本ウェビナーの質疑応答セッションの中から、注目したいQ&Aの内容を『電子署名がなされた電子契約の法的効力に関するよくある質問』で紹介しています。あわせてご覧ください。
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