金融機関で主流となるeKYCの最新動向と2027年制度改正への対応
金融業界では、認証方式や制度改正を含めた利便性とセキュリティ確保が欠かせません。そのため、オンラインによる銀行や証券口座の開設では「eKYC」が主流となりつつあります。来店や郵送を必要としない利便性と業務効率化と不正防止を果たす「eKYC」の基本やその仕組み、そして課題と今後の方向性について解説します。

*本稿は2025年10月20日時点の情報に基づいており、今後の法令・ガイドライン改正により記載内容が変更される可能性があります。
銀行口座や証券口座などの開設で一般的になりつつあるeKYC
eKYC(Electronic Know Your Customer)は、オンライン上で本人確認手続きが完結するシステムです。従来の本人確認では、窓口での対面確認や書類の郵送が必要でした。eKYCは、デジタル化や業務効率化に関するニーズの高まりや、スマートフォンによる本人確認に関する制度改正といった背景もあり、昨今急速に普及が進んでいます。
eKYCは、本人確認の正確性を担保しつつ手続きを迅速に進められるため、利用者と企業の双方に大きなメリットがあります。来店不要、郵送不要という手続きの簡素化は、申込者の利便性を格段に高めます。
また、企業側にとっても書類不備の防止や管理業務の負担軽減、確認ミスの減少、審査の迅速化といった業務効率向上が期待できるメリットがあります。加えて、金融業界にとって問題となっているマネーロンダリングや不正アクセスの防止を強化できれば、サービスの安全性と社会的信頼をさらに確保できるでしょう。
利用者のメリット:来店不要・郵送不要で手続きが簡単
企業側のメリット:管理業務の効率化、不備削減、審査迅速化
こうした利点を背景に、eKYCは銀行や証券、クレジットカードといった金融業界だけでなく、暗号資産取引所から通信キャリア、不動産業界、オンライン診療や処方薬配送といったヘルスケア分野にまで広がりを見せています。eKYCは、本人確認が必要とされるオンライン取引において主流となっていくでしょう。
【参考】デジタル時代の本人確認「eKYC」とは? https://www.docusign.com/ja-jp/blog/what-is-eKYC
現在のeKYCの運用に関する課題
eKYCの認証方式には、「犯罪収益移転防止法」で定められた「ホ方式」「ワ方式(2027年4月1日からはヲ方式に整理)」「へ方式」のなどがあり、採用する手段によって本人確認の強度や運用コストが異なっています。現在最も多く採用されているeKYCは「ホ方式」です。「ホ方式」は、利用者がスマートフォンで撮影した本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードの表面など)と自分の顔写真の画像をシステムに送信し照合します。「ホ方式」は、操作がシンプルかつ短時間で本人確認ができるため、多くの事業者が導入しています。対応する本人確認書類の範囲も広く、パスワードの入力などがない点はどんなユーザーにも優しく、人間が目視確認できる情報の確認を行うという意味ではバックオフィスにも優しい方式と言えます。
一方、技術の進展に伴って、いくつかの課題も浮上しています。最近、特に大きな課題となっているのは「なりすまし」です。近年では、AIを用いた顔画像の合成やディープフェイク技術が高度化しているため、画像照合だけではその真正性の保証が難しいという判断になってきており、実際、本人の写真を模倣することでeKYCを通過しようとするケースも報告されています。
※ワ方式は、2027年4月以降は「ヲ方式(公的個人認証方式)」として整理される予定で、2027年3月31日までは「カ方式」に該当します。
出典
※1 財務省 教えて!マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/amlcftcpf/2.measures.html
『ホ方式』『ヘ方式』『電子証明書方式(ワ→ヲ方式)』とは?──2027年4月から変わるオンライン本人確認の分類を整理
*2027年4月1日施行の制度改正により、オンラインで完結できる本人確認(eKYC)の方式区分が見直され、電子証明書方式のうち、これまで「ワ方式」と呼ばれていた公的個人認証(JPKI)を用いた仕組みは、2027年4月1日以降「ヲ方式」へ整理される予定です。本サイトでは、2025年10月20日時点の情報に基づき、変更前・変更後の方式を併記しています。なお、2027年3月31日までは、同じく公的個人認証方式が「カ方式」として位置づけられていました。※実際の法令・ガイドラインの改訂内容および適用時期については、金融庁の公表資料をご確認ください。
このように、eKYCの認証方式である「ホ方式」は導入がしやすく多くの導入実績がありますが、不正な身分証明証を作成する技術が目覚ましく発展しており、顔認証を提供するベンダーの能力によっては不正の検出精度にもバラつきがあります。そこで新たに注目を浴びているのが「ICチップ読み取り方式」である「ワ方式(2027年4月1日からはヲ方式に整理)」や「ヘ方式」です。
「ワ方式」は、マイナンバーカードの署名用電子証明書を検証し、専用アプリを使って公的個人認証を行うことで本人確認をする方式です。国家基盤(JPKI)に基づく電子認証でもあり、本人性の信頼性が非常に高く、なりすまし対策にも有効とされています。
「ヘ方式」は、マイナンバーカードのICチップの情報に付与された電子署名の検証と顔画像の照合で認証する方式です。
認証方式を選ぶ際は、対象とするユーザー層、求められるセキュリティ水準、導入のスピード感、運用コストといった複数の要因を考慮する必要があります。
【比較表:eKYCの認証方式】
方式 | 仕組み | メリット | 課題 | |
ホ方式 |
| 本人確認書類+ | 操作が簡単 短時間で認証可能 | 2027年の法改正から承認されたeKYC方式ではなくなる |
ワ方式 *2027年3月31日まではカ方式に整理 *2027年4月1日からはヲ方式に整理される予定 |
| マイナンバーカードによる公的個人認証を利用した本人確認 | 国家基盤に基づく なりすまし対策に強い | マイナンバーカード パスワードの入力が必須 専用アプリが必要 |
ヘ方式 |
| ICチップ情報+ | マイナンバーカードを使用した場合、パスワード入力がない、マイナンバーカード以外の身分証明証にも対応 | 専用アプリが必要 |
金融業界でスタンダードとなるのはどれ?eKYCの未来
金融機関で主流となっている「ホ方式」は、利便性の向上という観点では、一定の成果を上げてきました。しかし、法制度の改正によって、そのあり方は大きな転換点を迎えています。
政府は、犯罪収益移転防止法の改正および関連省令の見直しを通じて、2027年4月1日から重要な方式整理を行い、『ホ方式』の旧形(画像送信型)を廃止し、本人確認をより強化した方式への移行を進めており、本人確認の手段としてICチップ読み取りを行う「ワ方式(2027年4月1日からはヲ方式に整理)」に整理することとしました。これは、より確実かつ安全な本人確認を社会的なインフラとして定着させるための措置であり、多くの金融機関に影響を及ぼす内容であるといえます。
「ワ方式(2027年4月1日からはヲ方式に整理)」は、国が整備した公的個人認証サービスを活用しており、本人確認における「正確性」と「信頼性」では、他の方式より優れています。その一方で、マイナンバーカードの所有率や、読み取りに専用アプリを必要とする点、利用者のITリテラシー、読取対応端末の普及状況など、運用上の課題にも対応が必要です。
金融機関としては、
システム改修と顧客インターフェース整備 マイナンバーカード対応サポート体制の準備
内部規程・マニュアルの改訂
といった幅広い対応が求められることになります。
Docusignの本人確認ソリューション
Docusignでは、電子契約サービスにおける本人確認の重要性を踏まえ、eKYC準拠サポートのためのソリューションを提供しています。契約締結における本人確認が自動で行え、契約の信頼性とスムーズな手続きを同時に実現することができます。Docusignソリューションは、金融機関だけでなく、保険会社やFintech事業者でも高い評価を得ています。
DocusignのeKYC対応は、現在「ホ方式」に対応しています。パートナーのLiquid社の提供する国内トップクラスの顔認証技術で、ディープフェイクに対抗する顔認証を提供しています。
「ICチップ読み取り方式」である「ワ方式(2027年4月1日からはヲ方式に整理)」と「へ方式」への対応は2025年12月中旬に提供開始を予定しており、提供中の「ホ方式」をすでにお使いの場合は、設定の変更だけでICチップ読み取り方式への移行をしていただけます。
こうした段階的な対応ロードマップにより、制度変更や規制強化にも追随できる体制を整え、将来的なガバナンス強化に貢献していきます。
また、Docusign ソリューションはUI/UX設計の点でも優れています。DocusignのeKYCフローは、ユーザーの操作になじんだ形で契約手続きに組み込まれているため、デジタルに苦手意識のあるユーザーでも、本人確認手続きをストレスなく完了できる設計となっています。こうした利便性とセキュリティの両立は、デジタル社会におけるサービス提供の品質そのものであり、他社との差別化要因にもなります。
eKYCは、利便性と真正性、業務効率とコンプライアンスを同時に満たす、現代の本人確認手法として今後も進化を続けていくでしょう。法制度変更を機に、ホ方式からICチップ読み取り方式ワ方式(2027年4月1日からはヲ方式に整理)への移行が進むことは、単なる技術的対応ではなく企業としての信頼性や顧客対応力を問われる重要な転機といえます。今後の本人確認業務は、ユーザーにとってわかりやすく、かつ高いセキュリティを提供できることが重要です。
※ワ方式は、2027年4月以降は「ヲ方式(公的個人認証方式)」として整理される予定で、2027年3月31日までは「カ方式」に該当します。

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