デジタル時代の本人確認「eKYC」とは?
eKYCとは「electronic Know Your Customer」の略称で「イー・ケー・ワイ・シー」と読み、銀行口座や証券口座などの開設時に求められるオンライン上での本人確認手続きを意味します。本記事では、デジタル時代に欠かせない技術となりつつあるeKYCの基礎知識を解説します。
スマートフォンなどモバイル機器の活用が進むにつれて、「eKYC」が活用されるシーンが拡大しています。eKYCとは、オンライン上で行われる本人確認のことで、今後社会全体のデジタル化を推進するうえで、さらに活用が進む技術といっても過言ではありません。そこで本記事では、eKYCの意味や実際の活用事例などを通じて、私たちの社会でeKYCがどのような役割を果たしているのかについて紹介します。
口座開設に必要不可欠なKYCとは?
eKYCについて知るために、まず「KYC」について解説します。KYCとはKnow Your Customer(顧客を知る)の略称で「ケー・ワイ・シー」と読み、銀行口座や証券口座などの開設時に求められる本人確認のことを指します(※1)。銀行などで口座を開設する際には、身分証明書の提示など、さまざまな本人確認の手続きが行われます。その手続きの総称がKYCです。
さて、この本人確認ですが、大別すると「当人認証」と「身元確認」の2種類があります。「当人認証」とは、IDやパスワード、暗証番号などを用いて行われる本人確認で、銀行口座などにアクセスする際に、アクセスの権利を有する人物かどうかを確認するものです。IDやパスワード以外にも、生体認証やカードキーによる認証も当人認証に分類されます。一方、「身元確認」は、その人の身元を確認するために、公的な証明書類と本人を紐づけ、住所や氏名、電話番号などを登録することを指します。銀行口座の開設における運転免許証やマイナンバーカードなどの提示は身元確認に分類され、こうした手続きをオンライン上で実施するのがeKYC(electronic Know Your Customer)です。
eKYCの具体的な手法としては、犯罪収益移転防止法(※2)に定められた規定が挙げられます。犯罪収益移転防止法とは、犯罪組織によるマネー・ロンダリングやテロ組織への資金提供を防止するために、口座開設などの際に本人確認の実施や保存を義務付ける法律です。この法律により、金融機関やファイナンス事業者、クレジットカード事業者などには、身分証明書をカメラで撮影して提出する方法や、身分証明書に付属するICチップをスマートフォンなどで読み取って提出する方法でeKYCを実施することが求められています。
eKYCの活用メリットとは?
犯罪などの防止を目的として実施されているeKYCですが、サービスを提供する事業者はもちろん、そのサービスを利用する消費者にもメリットをもたらしています。例えば、事業者は業務効率化やコスト削減といった効果が期待できます。従来、本人確認には窓口での対面手続きや、書面の郵送によるやりとりが必要でした。しかし、eKYCを導入すれば、人件費などの業務コストは大幅に削減することができ、それにかかる手間や工数も低減させることができます。
また、消費者にとっては、各種手続きを簡素化、迅速化できるメリットがあります。これまでは窓口に出向いたり、書面を作成して郵送したりといった手続きが必要だったところを、それらすべてをオンラインで行えるようになり、消費者の利便性向上にも大きな役割を果たします。さらに、新しい生活様式が広がる中でeKYCは有益な手法ともいえます。非対面・非接触が推奨される昨今、本人確認などの厳密性の問われる手続きであっても、オンライン上で実施できるのは社会的なメリットでもあります。
金融、携帯電話、婚活など幅広いシーンで活用されるeKYC
では、eKYCは具体的にどのような場面で利用されているのでしょうか。最も一般的な業界は金融業界で、銀行や証券会社、クレジットカード会社などの多くで、口座開設やカード発行の際にeKYCが採用されています。さらに、近年では、一部のクレジットカード会社が、クレジットカードを発行せずにクレジットサービスを利用できる「カードレス決済」を提供しており、申し込みからサービス提供開始までの手続きの完全オンライン化を実現しています。その際の本人確認にもeKYCが利用されています(※3)。
また、通信業界での活用も広がっており、某大手通信系企業では携帯電話の新規契約時の手続きをオンラインで完結させるため、eKYCを導入しています(※4)。こうした手続きのオンライン化により、契約当日のサービス利用開始が可能になりました。そのほか、婚活業界でもeKYCは利用されています(※5)。複数のマッチングサービスでは、利用者の安全確保を目的に、スマートフォンのカメラを用いて本人確認の手続きを行なっています。
ますます普及が進むeKYC、しかし今後の課題も
通信業界や婚活業界などの事例からも分かるように、現在、eKYCの活用範囲は広がりつつあります。今後、オンラインサービスの普及に合わせて、ますます一般的になっていくと考えられます。しかし一方で、課題も存在しています。例えば2020年、渋谷区が採用したeKYCを利用した住民票交付サービスは、総務省から「セキュリティや法律の観点から問題がある」と指摘を受け、サービス導入に問題が発生しています(※6)。
利便性が高く、事業者や消費者に多くのメリットをもたらすeKYCですが、そのあり方は、デジタル技術に関連する法制度や個人情報保護法などの動向によって、大きく左右されるものとなります。eKYCの今後を見通すためには、個人情報保護法をはじめとした法律や規制の動向にも注視が必要となるでしょう。
おすすめ記事:電子署名における本人認証の考え方
参考:
※1 FinTech Journal(2020年12月22日)eKYCとは何か? 本人確認や銀行口座連携の手法、関連サービスを解説
※2 JAFIC 犯罪収益移転防止法の概要
※3 日本経済新聞 カードレス決済、参入続々 非接触・非対面が加速
※4 日本経済新聞 楽天モバイル、オンラインで契約完結 当日利用可能に
※5 日本経済新聞 オンライン婚活市場620億円超、サイバー系調べ
※6 ITメディアオンライン「総務省は常識を逸脱」渋谷区と総務省が対立の“住民票LINE交付”巡り、技術提供会社が国を提訴
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