
弁護士が解説!2023年度改正で何が変わる?電子帳簿保存法と電子署名の最新対応
2023年度の電子帳簿保存法改正により、電子取引やスキャナ保存の要件が大幅に緩和。Docusignは日本の法令に対応した電子署名と契約管理機能で、法令対応から業務効率化・DX推進まで一貫して支援します。(監修:アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 宮川賢司 氏)

本記事の内容は、令和5年6月版「国税庁 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」および当社による独自の調査に基づいて作成しています。ただし、本内容は電子帳簿保存法への準拠を保証するものではなく、各企業・ご利用環境に応じた要件の確認を推奨いたします。実際の保存方法や運用が税務調査において問題ないものと判断されるかどうかは、所轄の税務署までお問い合わせ・ご確認いただくようお願いいたします。
なぜ今、電子帳簿保存法が注目されるのか
2023年度(令和5年度)の電子帳簿保存法改正により、電子取引データの保存要件が大きく緩和されました。これにより、契約書・請求書・領収書といった税務関連書類を電子的に管理・保存するハードルが大幅に下がり、企業の業務効率化がさらに進むと期待されています。こうした流れの中で、電子署名・契約管理ソリューションであるDocusignも、日本の法令要件に対応した形で広く利用されています。 「外資系の製品だから日本の電子帳簿保存法に対応していないのでは?」と懸念される方も少なくありませんが、ご安心ください。本記事では、改正の背景とポイント、そしてDocusignがどのようにこの法制度に対応し、企業のDXを支援しているのかをわかりやすく解説します。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法(正式名称:「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」)は、企業が税務署へ提出・保存する書類をデジタルデータで保管できるようにする法律です。電子帳簿保存法では、保存対象となるデータの性質に応じて主に「電子取引」と「スキャナ保存」に区分されます。
「電子取引」とは、請求書や契約書を電子データで授受する取引(メールやクラウド請求書など)を指し、「スキャナ保存」とは、紙で受領した書類を一定の要件のもとで電子化して保存する方法をいいます。
双方の要件は一部異なるものの、いずれも改正により実務負担が軽減されました。この法律は1998年の施行以来、クラウドや電子署名技術の進化に合わせて段階的に改正されてきました。
もともとは「改ざん防止」を目的とした厳格な運用が求められていましたが、2020年のコロナ禍以降は国全体での税務DX・電子取引の普及を促進する方向に舵が切られています。在宅勤務やリモートワークが普及し、紙・押印文化を見直す動きが加速。同法は、そうした時代の要請に応える形で実務の柔軟性を高めています。
2023年度改正の3つのポイント
【図表1】2023年度改正の主要3ポイントと企業への影響

2023年度の改正では、電子取引データの保存やスキャナ保存に関する要件がさらに緩和されました。宮川先生の解説を踏まえ、具体的な変更点を詳しく見ていきます。
1. 検索要件の免除対象が拡大
電子帳簿保存法では、税務調査の際に取引データを迅速に検索できるよう、電子データには「検索要件」が求められます。具体的には以下の3条件です。
取引年月日、金額、取引先を条件として検索できること。
日付や金額の範囲を指定して検索できること。
複数条件を組み合わせて検索できること。
これまでは売上高1,000万円以下の事業者のみが検索要件の免除対象でしたが、2023年度改正により5,000万円以下の事業者まで拡大されました。さらに、電子取引データを紙で整理し、日付・取引先ごとに提出可能な場合も免除対象に追加。中小企業にとって電子取引データの保存がより容易になりました。
2. 宥恕措置の廃止と完全義務化
2022年度改正で導入された「紙保存禁止」の経過措置(宥恕措置)は、2023年12月31日をもって終了しました。これにより、2024年以降は電子取引データを電子的に保存することが完全義務化されます。つまり、取引情報をPDFで受領した場合などは、紙で印刷して保存するだけでは違反となるため注意が必要です。
宥恕措置は移行期の猶予措置として一定の効果を果たしましたが、今回の廃止によって、税務処理の完全デジタル化が現実的に求められる段階に入りました。
3. スキャナ保存の要件緩和
紙で受領した契約書や請求書をスキャンして保存する「スキャナ保存」制度にも大きな変更がありました。従来は以下のような細かな技術要件が存在しましたが、2023年度改正により実務負担が軽減されています。
解像度・階調・サイズに関する保存情報の記録義務が撤廃。
相互関連性 (帳簿との紐づけ) の対象が重要書類(契約書・領収書など)に限定。
一般書類 (注文書・見積書など) は相互関連性を確保する必要がなくなりました。
その結果、スキャナ保存はこれまで以上に実務に即した柔軟な運用が可能となっています。なお、スキャン時の解像度(200dpi以上)やカラー保存といった技術基準そのものは引き続き維持されていますが、従来求められていた訂正・削除履歴の保存義務や、タイムスタンプの付与要件も緩和されました。改正後は、これらを必須とせず、他の手段で改ざん防止措置を講じれば要件を満たす形に変更されています。
これにより、スキャナ保存の実務運用は大幅に柔軟化しました。
改正による3つの実務メリット
紙保管の削減によるコスト圧縮: 印刷・郵送・保管コストが大幅に減少。
税務・監査対応の迅速化: 検索要件の緩和で、調査時の対応負担を軽減。
法務と経理のデータ連携強化: 電子取引情報を共通基盤で扱えるようになり、社内のデータ整合性が向上。
電子帳簿保存法改正が電子署名と契約DXに与える影響
紙と電子の併用リスク
契約業務の現場では、契約当事者の片方が紙で押印、もう片方が電子署名という「ハイブリッド契約」がまだ残っています。しかし、電子帳簿保存法上、どちらのデータを正として保存すべきかが曖昧になり、監査・税務対応のリスクを生みます。今後は完全な電子署名による契約管理への移行が推奨されます。
電子署名法との関係
電子帳簿保存法と電子署名法は別の法体系ですが、いずれも「改ざん防止」「真正性の確保」という目的で連動しています。Docusignの電子署名は電子署名法に基づく技術的要件に対応しており、電子帳簿保存法上も真正性の担保として有効に機能します。
Docusignにより電子帳簿保存法に対応できる理由
改ざん防止と真正性の担保
Docusignの署名プロセスは、署名者情報・署名日時・文書ハッシュ値などを自動で記録し、改ざんのない状態を保証します。電子帳簿保存法が求める「真実性・可視性・検索性」の3要件に対応することが可能です。
監査証跡と検索性
Docusign eSignatureおよびDocusign IAM(Intelligent Agreement Management)は、契約データをクラウド上で安全に一元管理。取引日付・金額・取引先などのメタデータで検索が可能で、税務調査時のデータ提示にも対応します。
データ保存とセキュリティ
現行制度では、電子データの保存先としてクラウド環境の利用も認められています。要件を満たす改ざん防止措置と適切なアクセス管理が行われていれば、クラウド上での保存も可能です。
DocusignのクラウドはISO 27001やSOC 2などの国際セキュリティ認証を取得。アクセス制御・監査ログ・暗号化など、多層的なセキュリティでグローバルスタンダードに準拠した安全性を提供します。
【導入が進む業界とユースケース】
製造業ではサプライヤー契約や見積書の電子化、金融・保険業では顧客同意書や取引記録の電子保存、不動産業では賃貸契約や重要事項説明書などで電子署名が急速に普及しています。これらの業界では、電子帳簿保存法への対応と業務効率化を両立する基盤としてDocusignが選ばれています。
契約データの活用とAIによる次のステップ
2023年度改正を契機に、企業が電子データとして契約・会計情報を整備する流れはますます進むと考えられます。Docusignでは、電子署名と契約管理にとどまらず、契約データそのものを知的資産として活用するためのAI機能を提供しています。
Docusign Navigator: 契約文書内の重要条項や支払条件などを自動抽出・検索し、監査・税務対応を効率化。
Docusign Iris: AIによる契約分析とリスク検知で、契約書レビューや監査対応の迅速化を実現。
これらのAI機能は、電子帳簿保存法対応の延長線上にある「インテリジェント契約管理(Intelligent Agreement Management)」を支える中核技術です。
改正を機に見直すべき実務上のポイント
法改正は単なる「要件変更」ではなく、企業の業務プロセスを見直す絶好の機会でもあります。以下の観点で点検することをおすすめします。
契約書・請求書・見積書などのデジタル保存フローが統一されているか
電子署名済みの契約データを社内でどのように共有・検索・保管しているか
紙と電子が混在する運用になっていないか
税務調査や内部監査時に、迅速にデータを提示できる体制が整っているか
Docusignを活用すれば、これらの課題をワンストップで解決し、契約の生成・署名・保存・分析までを統合管理できます。
Docusignで実現する契約DX
Docusign IAM(Intelligent Agreement Management)は、電子署名の枠を超えて契約ライフサイクル全体を最適化します。
契約データの一元化によるガバナンス強化
電子帳簿保存法に対応した自動保存・検索
契約情報を分析し、経営判断に活かすAI支援
紙と電子の併用から完全デジタルへの移行は、単なるコスト削減にとどまらず、法務・財務・営業部門を横断したDX推進の起点となります。
まとめ
2023年度の電子帳簿保存法改正は、企業が法令遵守を保ちながらDXを加速させる絶好のチャンスです。法務・経理・ITが連携し、デジタル署名と電子保存の両面で信頼性の高い仕組みを導入することが、今後の企業競争力に直結します。
Docusignは、グローバルで培った法規制対応の知見とAIを活用した契約管理技術を融合し、日本企業の電子帳簿保存法対応を力強くサポートします。
1997年、慶應義塾大学法学部卒。2000年、司法修習(52期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。2000年から2014年まで田中・高橋法律事務所(現事務所名 クリフォードチャンス法律事務所)勤務。2004年、英国University College London (LL.M.)修了。2014年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2019年、慶應義塾大学法学部非常勤講師(Legal Presentation and Negotiationを担当)。主に電子署名等のデジタルトランスフォーメーション(DX)に関連する業務や、気候変動・カーボンクレジット等のグリーントランスフォーメーション(GX)に関連する業務を取り扱う。DX関連では、金融機関や事業会社を含め、多数のDX関連業務のサポートを行う。主な著書は、「電子署名活用とDX」(きんざい、2022年)等。
Docusign IAMは、ビジネスに欠かせない契約プラットフォームです



