沢渡あまね氏に聞く!デジタル時代を生き抜く働き方とその先に広がる未来

作家/ワークスタイル&組織開発専門家、沢渡あまね氏のインタビュー連載。最終回となる今回は、「デジタルワークの先に広がる世界」について考えていきます。そこでは、成長意欲や能力のある多様な人々が、それぞれの事情によらない活躍が重要であり、それを阻害するハードルや垣根があるなら積極的に取り除いていかねばならないと、沢渡氏は語ります。そのような世界の実現は、企業や個人にどのような果実をもたらすのでしょうか。

沢渡あまね氏に聞く!デジタル時代を生き抜く新しい働き方と未来像(全3回連載)

① 新たな勝ちパターンを生み出すDX
ハイブリッドワークにおけるコミュニケーションのあり方
③ デジタル時代を生き抜く働き方とその先に広がる未来

デジタルワークの先に広がる世界は、「ダイバーシティ&インクルージョン」

沢渡氏:(以下同)デジタルを前提とした働き方が定着した先には、どのような新しい景色が広がっていくのでしょうか。私は、デジタルワークの到達するところに「ダイバーシティ&インクルージョン」が存在する―。これが非常に大事だと考えています。これは、組織には多様な人々がいるのが当たり前であり、どのような人々も歓迎して受け入れる考え方です。

こうするべき理由は、多様性・包摂性こそが企業を強くするものだからです。同質性の高い人々で構成された組織は、脆いものです。事業環境に何か大きな変化が生じた際、同じような考え方の人々ばかりでは打開策を思いつくにも限界があります。しかし、多様なバックグランドを持つ人々がいれば、こういう考え方もできる、ああいう方法もある、とさまざまな角度から検討できます。「レジリエンス」は回復力や弾力性を意味するもので、ダイバーシティ&インクルージョンの実現は、企業にレジリエンスをもたらしてくれます。

そのため、成長意欲や能力のある多様な人々による正しい活躍を阻害するハードルや垣根があるのであれば、それらを積極的に取り除いていかなければなりません。1日8時間×週5日、終身雇用を前提として人材を育てていく、それに追随できる人材だけを是とする、そのような人材育成の方法はもう曲がり角に来ています。以前、立教大学の中原淳教授と対談したとき、中原先生は「これからの時代、すべての人がワケあり人材」とおっしゃっていました。育児中の人もいれば、介護中の人もあり、学校に通っている人もあれば、経済的理由や自身の成長のために「複業」したい人もいるかもしれません。誰しもそうした事情を抱える可能性はあるわけで、彼らが排除されずに、事情が考慮されつつ働き続けられる環境が、まさにデジタルワークの先に広がる世界であってほしいと思います。

「ワーケーション」のススメ

ダイバーシティ&インクルージョンを実現する、近未来のデジタルワークの形の1つとして、私が特におすすめしたいのはワーケーションです。ワーケーションは、働く人の多様な属性を尊重したうえで、場所や時間に縛られずに働けるワークスタイルだからです。ただし、私のいうワーケーションは、観光庁の言っているそれとはニュアンスが若干異なります。観光庁では「新たな旅のスタイル」と言っていますが、私の言うワーケーションは「新たな働き方のスタイル」です。

ワーケーションのように普段と異なる景色の中で働くのは、緑視率の向上、脳のシータ波の活性化、場所細胞の活性化などの観点で、人の記憶力、集中力、発想力に効果があると科学的にも証明されています。いつも同じメンバー、同じ時間軸、同じ景色、同じ仕事のなかで、求められる成果を出し続けるのは困難です。ワーケーションは「新たな勝ちパターン」としての選択肢であり、少なくとも、非常に難しい仕事、非常にクリエイティブな仕事、誰もやりたがらない仕事を引き受ける人には、オフィスから離れて働くのは有効であると私は思います。

私自身、ワーケーションでは仕事が非常に捗ります。あるきっかけからダムの景色に魅せられて、「ダム際ワーキング」を提唱していますが、その周辺に全く何もないので、仕事をする気にもなります(笑)。また、デトックス・ワーケーションと称して、普段いる浜松とは違う場所で仕事をするケースもあります。典型的な観光地は不向きですが、景色が変わり、その土地のおいしいものを楽しむなかで、私の場合、新しい仕事のアイデアが次々浮かんできたりします。

労務管理などの観点で個人に許可するのが難しいのであれば、グループで実施してもいいかもしれません。ある意味、合宿の延長です。普段の会議における議論は記憶に残らないけれど、合宿で話し合った内容はいつまでも覚えている経験はありませんか?ワーケーションにはそのような効果があります。いずれにしても、業務として行うのであればデジタルツールの存在が前提になると思います。

これからの仕事は、デジタルが基本でアナログはオプション

デジタルワークを実践するのに必要なツールとして、私は「7つの神器」を挙げています。

デジタルワーク「7つの神器」
図1:デジタルワーク「7つの神器」
(出典:沢渡あまね講演資料ダイジェスト)

なかでも、個人的に好んで使っているのがビジネスチャットです。テンポよくコミュニケーションができ、組織の枠を超えて必要に応じて関係者を巻きこめるからです。電子メールは、異動や退職などで関係者が変わるとそれまでのやりとりを引き継ぐのが困難ですが、ビジネスチャットであればメンバーをタイムリーに追加したり削除したりでき、過去の履歴もすべて共有できます。

ビジネスには契約業務もつきもので、電子契約には「ドキュサインの電子署名(DocuSign eSignature)」をよく利用します。意思決定がどこでもできて非常に感動的です。実際、ダム際ワーキングをしているときに、顧問先からメッセージが飛んできて、ノートPCやスマートフォンで契約書の中身を確認し、署名するケースもよくあります。もう元には戻りたくありません。日本中を飛び回っていてオフィス不在のときも多いので、いきなり郵送されてもそもそも契約書の郵送に気づきません。それを取りに行くためにわざわざ戻るのも非効率です。場所に固定された働き方を強いるのは、相手の自由度やイノベーションの可能性を奪います。「いやいや、そうはいっても契約は紙でないと」と考えているとしたら、それは時代の変化に適応できていないと言えるのではないでしょうか。

これからの時代、デジタルが基本でアナログはオプションと考える、つまり仕事のシフトチェンジが重要です。基本的にはデジタル上で業務を行い、すべての意思決定もそこで行う。対面によって深い話ができたり、共感が生まれやすいのであれば、そこはオプションとしてアナログを使っていく方法がよいでしょう。前向きに仕事をデジタルに置き換え、「なんだ、今までこんな作業に時間が取られていたんだ」「この作業はそもそもムダだった」と気づくのが、DXにおける第一歩だと考えています。

沢渡あまね
筆者
沢渡 あまね
作家/ワークスタイル&組織開発専門家
公開