これだけはおさえておきたい!2020年4月、民法改正で人事労務はどう変わる?
2020年(令和2年)4月、新民法が施行となります。120年ぶりの民法大改正によって企業を支える法理の原理・原則が大きく変わり、社内外を問わずビジネスシーンにおけるさまざまな契約実務で対応が求められることになります。今回は、企業の人事部門がメインの管轄となる労働契約について、民法改正への対応策を解説します。
2020年4月、ついに新民法が施行となります。管理部門の仕事で、何かしらの制度改正の対応に追われることは珍しくありませんが、今回ばかりは120年ぶりの民法大改正です。
商法も会社法も労働法も、その土台には民法があります。さまざまな法律の原理・原則でもある民法が大きく変わるとなれば、対応しようにも一体どこから手をつければよいかわからない人も多いのではないでしょうか。
しかし、この民法の大改正により、社内・社外を問わずビジネスシーンにおけるさまざまな契約実務で対応が求められます。今回はこのうち、企業の人事部門がメインの管轄となる労働契約などについて、民法改正への対応策をみていきましょう。
今回の民法改正で特に人事部が注意すべきは「身元保証」
企業の人事・労務関連の実務で、今回の民法改正で特に影響を受けるのは、「従業員の身元保証」に関する取り決めでしょう。入社手続きの段階で、こうした身元保証に関する取り決めを書面で結んでいる企業は多いのではないでしょうか。もし従業員が企業になんらかの損害を与えた場合に、身元を保証する保証人にも損害賠償などの法的責任が生じるというものです。
こうした取り決めについては、就業規則の中でも明記され、入社時の手続きとして必須のものと位置付けられていることもあります。
今回の民法改正で保証契約のあり方が大きく変わるため、その影響を受けて、身元保証契約のやり方も、見直しが必要となるケースが多くなっています。
この背景にあるのは、新民法のもとで「保証」に関する規定が大きく変わったことです。
保証する金額が、保証人となる時点でまだ明確とならない保証契約のことを、根保証(ねほしょう)契約と言います。新民法のもとでは、個人の根保証契約は上限金額を定めない限り無効とされることになりました。
入社時の身元保証契約は、従業員が今後会社に損害を与えた場合を想定して締結する保証契約であり、一種の根保証契約です。つまり保証金額の上限を定めないと、身元保証の契約を締結することができなくなったのです。
もし対応がまだであれば、自社の入社手続きで使用している身元保証契約書のテンプレートの記載を見直しましょう。そこにもし補償額の上限金額などの記載がなく、ざっくり保証責任を負わせる旨が記されているだけなのであれば、対応が必要です。
これから4月入社、大量の新人の入社手続きが控えている企業では特に、今からでも対応を急ぐべきでしょう。
身元保証の限度額の契約書への記載方法は?
これまで保証金額の上限を定めなくても身元保証契約が有効だったので、契約書には「(保証人が)連帯して、その損害を賠償する責任を負うことを確約します」といったような、具体的な上限金額を示さない記載方法が一般的でした。
今まででしたら、こうした取り決めだけで万が一の備えとしても十分でした。しかし2020年4月からは「保証金額の上限を○○円として」といった記載を加えるなどして、契約書に記載される文言を見直す必要があります。もしこうした取り決めがなければ、契約は無効となり、回収した契約書も無意味なものとなりかねません。
身元保証の限度額はどう決めれば良いか?
保証を受ける企業にとっては、たしかに上限金額は高ければ高いほど良いでしょう。しかしあまりに上限金額が高額だと保証人のなり手を確保するのが困難になり、そのせいで入社手続きを行う新入社員を困惑させてしまう可能性もあります。
これらの点を踏まえて身元保証の上限金額は、一体いくらぐらいに決定するのが良いのでしょうか。
極度額の定め方や、その上限額については、実は法律による規制はありません。つまり限度額は当事者間で合意できる金額であればよく、設定した限度額が高すぎるといった理由で契約が無効になることはありません。
しかし、限度額をいくら高く設定したとしても、実際に従業員が何らかの損害を起こした場合には、最終的にはその限度額の範囲の中で、裁判所が損害賠償額を決定することになります。
こうした点を踏まえると、新たに採用する人の月収や年収などの所得水準や、社内で持つことになる権限の大きさなどを踏まえて、不正行為などの抑止が期待できる程度の金額を設定するというのが一つの道筋になるでしょう。「本人の基本給の〇〇カ月分」といった規定の仕方も考えられます。
身元保証契約に関するその他の注意点は?
また、この身元保証契約に関連して、いくつか補足すべき点もあります。
2020年4月以前に締結された身元保証契約の扱いは?
2020年4月以前に締結された身元保証契約であれば、新民法の施工前なので、こうした上限金額の取り決めがなされていなくとも、有効な契約となります。しかし2020年4月以降は新民法下での対応が求められ、上限金額を決めなければ身元保証契約は無効となります。
企業側の管理責任も軽くない点に注意
また、従業員が会社になにかしらの損害をもたらすような場合にも、そもそも企業には使用者としての責任があるため、従業員やその保証人に損害賠償を求めるハードルは高くなりがちです。会社のお金を横領したような事案に対してでさえ、会社側の管理体制の不備などを理由に、保証人に対する損害賠償を数割程度しか認めなかった裁判例が過去にはあります。
たとえ身元保証契約があるとしても、まず原則として企業側には、各従業員の業務をマネジメントする責任があります。そのため、各従業員が業務に取り組む中で何かしらの損害を及ぼしたとしても、その責任を従業員本人やその保証人に追求することは決して簡単ではないのです。
身元保証契約の最長期間は5年
ほかにも、身元保証の契約には期間があり、最長5年と定められている点にも注意が必要です。実務上、入社して5年以上たった段階であれば、通常はもうすでに本人の人柄がわかることもあり、この身元保証契約をあえて更新するケースは多くはないでしょう。
しかし、もし引き続き身元保証契約の効力を維持したいのであれば、契約を更新する必要があります。
多額の現金を日々扱うような職種であれば、身元保証の効力を維持するために、契約更新が必要な場合もあるでしょう。
まとめ
民法は数多くの法律の基礎に位置するため、その見直しがビジネスに与える影響は計り知れません。人事部門の実務にも大きな影響を及ぼします。
今回の民法の大改正は、120年ぶりにあらゆる規定を大きく見直したものです。できて100年以上の歴史のある民法を、いまの時代・いまの社会の状況に合わせてデザインし直したということでもあります。
一度制定された法律も、時間がたつ中で徐々に古くなり、時代に合わなくなっていくことで、見直す必要が出てくるのでしょう。それが個別の条文の改正となることもあれば、今回の民法の大改正のように、大々的な見直しとなることもあります。
業務の仕組みを取り仕切るITシステムと同じように、社会の仕組みを取り仕切る法律もまた、常にアップデート・メンテナンスが必要ということなのかもしれません。
入社時に新入社員から回収すべき書類は多く、抜けや漏れなく全てを回収するのは人事担当者にとって大きな手間になりがちです。身元保証契約書などの日々の実務と関係のない文書は、回収が先延ばしになり、そのまま忘れ去られてしまうといったケースも少なくないでしょう。
ドキュサインの電子署名を活用すればこうした文書の回収状況など、契約プロセスの進捗状況が簡単に把握できるため、抜けや漏れなく確実に回収することができます。
今回、民法が大きく改正されたように社内のシステムを見直すなら、既存のテンプレートの文言変更だけでなく、契約にかかわるプロセス全体の抜本的な見直しをしてみてはいかがでしょうか。
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