地方移住に補助金?テレワークの普及にみる地方創生の展望とは
テレワークなど新たな働き方が普及し、企業のオフィス縮小・削減や、地方移転なども加速しています。このような動きは、都市部の一極集中・地方創生といった社会問題の解決の一助としても期待されています。今回は、助成制度など政府・自治体によるテレワーク支援の最近の動向、そしてテレワーク移住のメリット・デメリットをみていきましょう。
新型コロナウイルス感染症対策の一つとして社会全体でもテレワークが一気に普及し、それに対応するかたちで企業のオフィスの縮小・削減や、地方移転などの新たな動きも加速しています。
しかし、新たな動きを見せているのは、企業やそこで働く人だけではありません。テレワークをはじめとする多様な働き方を支援することは、都市部の一極集中・地方創生・地域経済の活性化といった社会問題の解決の一助となることも期待されています。そのため、政府や自治体の多くも、助成制度をはじめとするテレワーク支援の動きをみせています。
今回は、なぜ政府がテレワークを推進するのか、その背景とテレワーク支援に関する最近の動向、さらには地方に移住するメリットと注意点について考察します。
政府がテレワークを推進する理由とは
現在、日本政府は地方でのテレワーク移住に対し、数百万単位での助成金支給を行うことを検討しています。政府がこうしたテレワーク移住をすすめる理由はなんなのでしょうか。
地方の過疎化と都市一極集中、テレワークとの関係は?
現在の日本では、大企業の本社・政府機関などの多くが首都東京に集中しており、地方と都市部の格差は大きな社会問題となっています。
地方では良質な雇用を生み出しづらく、少子高齢化・人口減少といった課題が深刻化しやすい事情があります。さらに地域経済が疲弊し税収が減少、行政サービスの拡充が困難になることから、ますます人口減少が加速するという悪循環は多くの自治体に共通してみられます。
しかし、これは地方だけの問題ではなく、実は都市部にとっても重要な政策課題です。卑近な例を挙げると、都市部では通勤ラッシュの時間帯、電車を何本見送ろうとも電車は満員です。しかし、主要な鉄道の多くは数分おきに発着を繰り返しており、もうこれ以上の増便が困難なケースも多いでしょう。また、災害やテロに対するリスク管理の面でも、都市部への一極集中は今後是正が必要であると考えられています。
このように地方にとって過疎化の傾向を避けたいのはもちろんのこと、都市部にとっても一極集中は是正すべき社会問題といえます。テレワークが普及し、時間や場所にとらわれない働き方が数多く実現したことは、政府にとってもこうした課題に着手する大きなきっかけとなったのです。
2021年度にはテレワーク移住で最大100万円の助成金も
2020年9月25日、内閣府はテレワークで東京の仕事をしながら地方への移住をした人を対象に、最大100万円の支給を行う方針を決定しました。またあわせて、地方でIT関連の事業を立ち上げた場合は最大300万円の助成を行う見通しも示されました。現段階では詳細はまだ明らかにされていませんが、この制度は2021年度の予算として取り入れられる予定です。
地方での雇用創出を目的とした助成制度では、地方創生起業支援事業や地方創生移住支援事業などのように、地方で起業した起業家やUIJターンによる就業を支援するものなど、様々なものがあります。しかし今回は、会社に勤めている人、すなわちテレワーカー(テレワーク従事者)が対象となってくることから注目を集めています。
こうした助成制度によって、今後地方移住がどの程度進み、都心の一極集中の現状がどう変化していくのかが注目されるところです。
テレワークで地方に移住するメリットとは
テレワークのために地方に移住する際に、一般的にメリットと考えられる点は次の通りです。
家賃をはじめとする固定費の削減
地方へ移住するメリットとしてまず挙げられるのは、都市部に比べて不動産価格が安く、家賃などの固定費を安く抑えやすいことが挙げられます。
「東京は家賃が高い」というのは、たしかによく言われることです。では、実際に地方に移住した場合、家賃にはどのくらい差額がでるのでしょうか。ワンルーム・1K・1DKの物件を基準にして、おおまかに概算すると次のようになります。
たとえば都内の人気エリアのひとつ、目黒区の場合、ワンルーム・1K・1DKの家賃の平均はおよそ10万円とされます。一方、JR中央本線あずさの終着駅、松本駅がある長野県松本市では、ワンルーム・1K・1DKの家賃相場はおよそ5万円とされ、目黒区のちょうど半分くらいになります。ほかにも、福岡空港のある福岡市博多区なども大体5万円が平均的な家賃相場のようです。
これらの比較を参考にワンルーム・1K・1DKといった単身世帯向けの物件に住む例で考えると、家賃は都内の半分、その差額は年間にして60万円ほどになります。
参考:LIFULL HOME'S 気になる街の相場から物件を探そう!家賃相場
自治体によるトータルでの支援体制
地方に移住するメリットは、助成金や家賃の安さだけではありません。ワークスタイルそのものを充実させていく支援に力をいれる自治体であれば、そうした支援制度を活用することで地方移住のメリットはさらに大きくなります。
たとえば新潟県は今年9月、東京の仕事を続けながら新潟県内に移住した場合に最大50万円(単身世帯であれば30万円)を支給する助成金制度を打ち出しました(参照:新潟県 テレワーカー・フリーランス移住応援金交付事業)。現時点で、当事業の詳細は明らかにされていませんが、助成金による経済的なサポートだけではなく、コワキーングスペースに関する情報提供や、住まい探しなどでもトータルでサポートを行う仕組みを整えていく構想が示されています。
ほかにも会社員のテレワークによる移住という話とは若干異なりますが、就業支援や通勤補助、子育て補助で移住・定住を促進したり、さらには働き方そのものをトータルパッケージで支援することに力を入れる自治体もあります。長野県では地域経済の活性化に寄与するベンチャービジネスの創業に対して、助成金支給制度をただ用意するだけでなく、助成制度の対象となるようなビジネスモデルの考案まで支援してくれる体制があります。
このように、多様な働き方を地方で実践しようとする際、ただ助成金の支給を受けて終わりではなく、ほかにも活用できる支援制度がないかもあわせて検討するとよいでしょう。
テレワークで地方に移住する際の注意点
現在の仕事を変えずにテレワークで地方に移住する場合、業種・職種によっても様々ですが、主に課題となりやすいのは以下の点でしょう。
仕事の確立
テレワークで地方に移住し、実際に生活をしていくとなれば、地方でも安定して稼働を続け、収入を得続けなければなりません。したがって、一時的にテレワークが導入されているだけで、また出社が命じられる可能性がある状況では、こうした助成制度の活用は難しいでしょう。
他方、今年10月からヤフーは「オンライン前提企業」に移行することを発表しました。テレワークの推進に意欲的な会社に勤務しているなら、こうした助成制度の活用も現実的になってくるでしょう。
ITへの対応
地方に移住し、都市部へのアクセスが容易でなくなったとしても、コミュニケーションの質の低下は業務の生産性に直結するため、避けなければなりません。遠隔地でのコミュニケーションをどれだけ充実させられるかは、ITツールをどれだけうまく活用できるかにかかっているでしょう。
たとえばビデオ会議ツールであるZoomや、チャットアプリのSlackなどは、営業や対面でのコミュニケーションを補完することができます。また、合意や契約、稟議においては電子署名ソリューションを導入することで、遠隔地からでもオンライン上でスムーズに進めることができます。対面で契約書に署名をもらったり、書類を郵送する必要はないので、「場所のハンデ」はなくなります。
ITで解決できない問題への対応
どれほど遠隔地でも仕事をこなせる仕組みが整ったとしても、対面で直接会って話さなければならない場面もゼロにはならないでしょう。頻繁にではないにしても、オフィスに出社するための「出張」が必要になったり、地方に移住することで出張に伴う費用・時間コストがかさむことも考えられます。
その場合の交通費・宿泊費などの扱いを事前にルールで決めておくことも大切です。勤怠管理のルールなどとあわせて、認識を揃えておきましょう。
まとめ
政府、自治体、企業それぞれが、さまざまな構想をもってテレワークの推進に取り組んでいます。働き方の多様化に伴い、働き手の選択肢も今後ますます広がっていくでしょう。
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