副業解禁が本格化?人事部門がチェックするべきポイントを解説
近年、企業の副業解禁に関するニュースを耳にする機会が増えています。政府の働き方改革やコロナ禍におけるテレワークの普及もあり、企業に勤める人の間でも副業に対する関心が高まっていると考えられます。今回は、副業に関する近年の動向を振り返るとともに、雇用契約書・就業規則など人事部門が注意したいポイントについて解説します。
ここ数年で、企業の副業解禁に関するニュースを耳にする機会が増えてきました。政府の働き方改革やコロナ禍におけるテレワークの普及もあり、企業に勤める人の間でも副業に対する関心が高まっていると考えられます。
そこで今回は、副業に関する近年の動向を振り返るとともに、その現状について整理します。また、副業のルールや雇用制度の見直しをはじめ、特に人事部門が注意したいポイントについて解説します。
なお、本ブログ記事では厚生労働省のガイドラインに従って、「副業」を「二つ以上の仕事を掛け持つこと」と定義しています。
副業の実態と近年の動向
副業している人が増えてきたといっても、「本当に副業している人は多いのか」「自分の周りで副業している人がどれくらいいるのか」など、疑問に感じている人もいるのではないでしょうか。まずは、近年の副業の実態を整理してみましょう。
データからみる「副業」の実態
厚生労働省が2020年7月に実施したインターネット調査「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」によると、副業をしている労働者の割合は、正社員、契約社員、派遣社員、パートタイム・アルバイトなど企業に勤めている人のほか、自由業・フリーランス(独立)・個人請負を含めた就業している人全体の9.7%という結果でした。ただし、正社員に限定すると5.9%まで下がります。
副業をしている理由としては、「収入を増やしたいから」が56.6%、続いて「1つの仕事だけでは収入が少なすぎて、生活自体ができないから」が39.7%、「自分で活躍できる場を広げたいから」が19.8%と上位を占めています。金銭的な理由で副業に取り組む人が多い一方で、自己啓発やキャリアアップを目的とする人は比較的少ないようです。
それでは、副業を解禁している企業の割合はどのくらいなのでしょうか。リクルートキャリアが2019年に実施した調査では、社員の副業・兼業を認める(推進ないし容認)企業の割合は30.9%となっており、2018年の前回調査から2.1ポイント上昇しました。
副業・兼業を認める理由としては、「社員の収入増につながるため」「特に禁止する理由がないから」といった選択肢がトップ2であったものの、前回調査から「人材育成・本人のスキル向上につながるため」「社員の離職防止(定着率の向上、継続雇用)につながるため」といった選択肢が大きく伸びています。人事戦略の一環として兼業・副業を導入する企業が増えているとも考えられます。
また2018年の兼業・副業に対する企業の意識調査では、副業を認めない理由も挙げられています。それによると、「社員の長時間労働・過重労働を助長するため」「労働時間の管理・把握が困難なため」がトップ2でした。副業と就業時間の関係については、後ほど言及したいと思います。
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副業解禁へ?政府の動きとコロナ禍による影響
安倍内閣では、自由な働き方を容認し推進することを1つの柱とした「働き方改革」を掲げていました。これを踏まえ、厚生労働省はガイドラインの策定、Q&Aの整理、パンフレットの作成など、副業・兼業を促進するための情報発信を行っています。
特筆すべきが、2018年に行われた「モデル就業規則」の改定です。モデル就業規則は、企業が就業規則を作成する際のモデルとなり、その内容は企業の人事労務に大きな影響を与えるものです。このモデル就業規則に副業・兼業関連の規定が盛り込まれたことで、社会的に副業・兼業を認める方向へ動いていくことが予測されます。
また、コロナ禍で収入が不安定になった、テレワーク実施によりすき間時間ができた、などの理由から副業に関心を持つ人が増えていると考えられます。実際に、ランサーズが実施した在宅勤務推奨時における副業・複業者のサービス利用状況調査では、副業で同サイトを利用する登録者の約3割が新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた2020年2月以降に仕事を開始したと回答しています。
副業解禁の検討時に注意すべきポイント
副業の増加を促す動きがみられる一方、副業には働き過ぎなど注意したい点もあります。経営層や人事部門などが副業の解禁を検討する際に、どのようなことを注意すればよいのか、取り上げるべきポイントをご説明します。
副業解禁に伴うメリット・留意点の確認
まずは、副業解禁が従業員と企業の双方にとって、どのようなメリット・留意点があるのかを洗い出す必要があるでしょう。業界や職種によって若干の違いがあるかも知れませんが、一般的には以下が考えられます。
従業員
メリット:
キャリア形成…離職しなくても別の仕事を行うことができ、スキルや経験を得て主体的にキャリアを形成できる。
自己実現…自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求できる。
所得の増加…副業によって所得が増加する。
起業・転職の準備…本業を続けながら、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職への準備ができる。
留意点:
長時間労働…副業によって合計就業時間が長くなる可能性があるため、時間や健康の管理が必要となる。
職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の意識が必要…本業に支障が出ないよう意識する必要がある。
雇用保険の有無…1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合がある。
企業
メリット:
従業員の知識・スキル向上…従業員が社内では得られない知識やスキルを習得できる。
従業員の自律性・自主性の促進…従業員が自律的にキャリア形成していく意識を持たせるきっかけとなる。
優秀な人材の確保 …別の仕事ややりたいことへ挑戦する機会を与えられるため、外部の人材を新たに獲得したり、内部の人材の流出を防止することが可能となる。
事業機会の拡大…従業員が副業を通じて社外から新たな知識・情報を入れることで、事業機会の拡大につながる可能性がある。
留意点:
必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務への対応が必要
上記は厚生労働省が作成した『副業・兼業の促進に関するガイドライン』を要約したものです。こちらを参考にして、企業ごとに固有のポイントを加えたり、優先したいポイントを検討するとよいでしょう。
特に気をつけたいのが、就業時間の問題です。労働基準法の規定により、事業場を異にする場合(事業主が異なる場合を含む)でも労働時間を通算する必要があります。従業員がある企業で8時間働き、夜間に別の企業で3時間勤務したとすると、この3時間の勤務は時間外労働として割増賃金となり、36協定の届出をしなければならないのです。これは、特に後から契約を締結する企業の事業主は、注意が必要でしょう。
労働時間に関する詳細は、厚生労働省の通達「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第 38 条第1項の解釈等について」をご覧ください。
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副業解禁範囲の検討
「副業を解禁する」と言っても、どこまで認める/認めないのか議論の余地があります。たとえば、競業を回避するために自社と同じ業種の副業は認めない、長時間労働を回避するために時間帯や曜日を制限するなどが考えられます。
検討事項の例について、厚生労働省の『副業・兼業の促進に関するガイドライン』では業務内容、就業日、就業時間、就業時間帯、就業場所、就業期間、対象者の範囲が挙げられています。他にも、人事や上司などの事前承認が必要か否か、雇用形態(他の会社に雇用される、事業主となるなど)に制限をかけるかなども考えられるでしょう。
雇用契約書・就業規則の変更と従業員への周知
副業を解禁する際、実務上では、雇用契約書や就業規則を変更するのが一般的な対応と考えられます。たとえば、雇用契約書には労働時間の上限については「副業・兼業における労働時間を通算した上限」であることを追記する必要があるでしょう。
また、副業を解禁する場合にはその旨を就業規則へ盛り込みます。モデル就業規則や厚生労働省のガイドラインなどを踏まえた形で、何らかの制約を設けた方が無難と考えられます。
最後に、雇用契約書や就業規則の変更について社内へ周知します。紙で配布する、各職場に掲示する、社内イントラにアップするなど、従業員が見やすいように配慮することも必要です。
なお、雇用契約書や就業規則の改定に際し社内承認が必要な場合は、ドキュサインの電子署名を利用して効率よく承認プロセスを進めることができます。また、従業員への通知に関しては、どうしても見落としてしまいがちな紙の配布・掲示やイントラへの掲載よりも、電子署名を活用した方が確実かつ効率的で、誰が確認(同意)した/していないのかをリアルタイムで確かめることができます。
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副業解禁の検討時の参考資料
副業解禁について、政府や自治体からさまざまな資料が公開されています。下記、政府のガイドラインや調査資料、事例など副業を解禁する上で参考にしたい資料をご紹介します。
厚生労働省の『副業・兼業の促進に関するガイドライン』
まずは、厚生労働省が公表しているガイドラインには目を通しておくことをおすすめします。副業の現状や政府の方向性はもちろん、企業が対応すべき内容や労働者が注意すべきこと、さらに労災保険や雇用保険・厚生年金・健康保険といったその他の制度まで幅広く網羅されています。
本ガイドラインを見ることで、企業が副業解禁に向けて具体的に何をすれば良いのか見えてくるはずです。就業規則の変更内容については、最新版のモデル就業規則を参考にするとよいでしょう。
副業従事者の事例
副業を始めようとする人が何を考えているのか、気になることもあるでしょう。副業従事者の声はインターネットで調べれば数多く出てきますが、中でも厚生労働省のウェブサイト上でまとめられているものが参考になります。
経営者や個人事業主、ボランティアなど、副業で新たなチャレンジをしている人たちの事例には、副業の目的やメリットだけでなく、時間管理や健康管理の工夫なども記載されています。副業について社内周知を行う際にあわせて紹介するのもよいかもしれません。
副業解禁企業の事例集
副業解禁に踏み切った企業の実例については、数々のニュースサイトやビジネスサイトを始め、新聞やテレビなどのマスメディアで目にしたことのある人も多いでしょう。
公的資料としては、中小企業庁の「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」の内容がよくまとまっています。各企業の副業解禁対象者、解禁範囲、社内手続きの方法を始め、解禁に踏み切った狙い、従業員へのサポート内容、メリット・デメリットが記載されています。社内で副業について検討する際の参考にしてみてください。
まとめ
働き方改革やテレワークの普及など、働き方の変化の1つとして「副業」の取り扱いが挙げられます。ビジネスパーソンにとって仕事の幅を多様化させることができる一方で、企業の人事担当者としては実務上どのように対応すべきか頭を悩ませるところでもあります。
現状と各種ガイドライン、企業事例などを参考に、社内で副業解禁の要望が出た際は慎重に検討を進めることが求められます。