
【2025年最新】法律はどうやって改正される?企業が知っておくべき流れと対策
社会やビジネスの仕組みがデジタル化・グローバル化するなかで、法改正は年々スピードを増しています。特に、電子帳簿保存法や電子署名法など、デジタル業務に直結する法律の改正は、企業の契約・文書管理のあり方にも大きく影響を与えています。この記事では、法律改正の仕組みとプロセスを最新情報に基づいて解説し、電子契約を活用する企業が押さえておくべきポイントをまとめます。

法律のルールは不変ではありません。現代の実情に合ったものにし、時代の要請に応えていくために、毎年多くの法律が改正されています。では、法律はどのような手続きを踏んで改正されるのでしょうか。今回は、法律を改正する目的とともに、法改正の一般的な流れや所要期間について解説していきます。
法改正とは?
法改正とは、立法府である国会が法律の内容を変更することをいいます。また、内閣が制定する「政令」や、内閣府および各省が制定する「府令(内閣府令)」「省令」の変更・新規制定についても、「法改正」に含める場合があります。さらに広い意味では、新しい法律を作ることも、従来の法規制を変更するものであることを踏まえて、「法改正」に含まれることがあります。
法改正が行われる理由
法改正が行われる主な理由の1つは、古くなった法律のルールを現代の実情に合わせることです。例えば、民法が成立したのは1896年ですが、120年以上にわたって同じルールを維持するわけにはいきません。時代に合わなくなった規定は、その都度改正がなされて現在に至っています。改正の目的は大きく3つに分類できます。
社会変化への対応:少子高齢化、デジタル化、環境問題など新たな社会課題への適応
国際整合性の確保:海外法令・国際基準との整合(例:GDPR対応など)
行政・業務効率化:デジタルガバメント推進や電子化促進
たとえば、2022年の電子帳簿保存法改正では、電子データでの保存が原則化され、紙での保存義務が緩和されました。2025年以降も、行政手続きのオンライン化やAI法制への対応を見据えた改正が進むと予測されています。このように、法律のルールを社会の実情に合わせるため、毎年多くの法改正が行われています。
最近行われた法改正の例
近年では、一例として以下の法律について大規模な改正が行われました。
①民法
2019年に相続関連の改正法が施行され、さらに2020年には債権法の大規模な改正法が施行されました。また、2022年の改正では、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。所有者不明土地対策は段階的に進み、2024年4月1日から相続登記の申請義務化・住所等変更登記の義務化が施行されています。
②消費税法
2023年10月1日より、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されました。仕入税額控除の取り扱いには2029年9月30日までの経過措置があります。
③育児・介護休業法
育児休業の取得促進を目的として、2022年から2023年にかけて、出生時育児休業(産後パパ育休)の新設や育児休業の分割取得などを内容とする改正法が、段階的に施行されました。2023年4月1日からは1,000人超企業に男性育休取得状況の公表義務、2025年4月1日からは300人超企業にも拡大されます。
④電子帳簿保存法
帳簿書類や電子取引データ(電子契約など)の保存につき、要件緩和などを目的とする法改正がたびたび行われています。2024年1月からは電子取引データの電子保存が完全義務化され、紙保存は認められません。事前承認制度の廃止や検索要件の簡素化など運用は緩和されつつも、データ改ざん防止や検索性の確保が必須となっています。
デジタル社会の発展に伴い、個人情報の利用が拡大していることを踏まえて、おおむね3年ごとに法改正が行われています。2022年4月には、個人情報保護の強化と適正利用の促進を柱とする改正法が施行されました。個人情報保護委員会は2024年に次期見直しに向けた中間整理を公表しており、今後の改正論点の検討が進んでいます。
2023年6月に施行された改正法により、特商法の対象取引を行う事業者が消費者に対して交付する書面の電子化が認められました。
法改正の手続きの流れ
法律を改正する(または新たに法律を制定する)際の手続きは、一般的に以下の流れで進行します。

1. 法律案の原案はどのように作成される?
法律案を提出できるのは、原則として内閣または国会議員です。
過去の傾向を見ると、成立した法案は依然として内閣提出法案が多数を占めています。たとえば、令和7年1月24日から同年6月22日まで開催された第217回通常国会では、内閣提出の法律案が59件中58件成立したのに対し、議員立法は17件の成立にとどまりました(議員立法の提出は77件)。 内閣提出の法律案は、所管省庁によって作成されます。所管省庁は、関係省庁との意見調整、審議会への諮問、公聴会での意見聴取などを経て、法文化の作業を行います。これに対して、国会議員提出の法律案(議員立法)は、有志の国会議員グループによって起草されるのが一般的です。
なお、近年では、法案の策定段階から国民や企業の意見を反映させるため、パブリックコメント(意見公募)制度の重要性が高まっています。 各省庁は総務省のe-Govを通じて広く意見を募集しており、特にデジタル関連法やAI・個人情報保護など、企業実務に関わる分野で活用が進んでいます。企業としても、自社業務に関連する法令案に意見を提出することで、より実務的な制度形成に寄与できるようになっています。
2. 内閣法制局による審査では何がチェックされる?
内閣提出の法律案については、閣議に付される前の段階で、内閣法制局による審査が行われます。
内閣法制局は、以下の観点から法律案を精査し、必要に応じて修正を行います。
憲法や他の現行の法制との関係、立法内容の法的妥当性
立案の意図が、法文の上に正確に表現されているか
条文の表現や配列等の構成は適当であるか
用字や用語について誤りはないか
3. 閣議決定はどのように行われる?
内閣法制局の審査を経た法律案は、内閣官房に回付され閣議にかけられます。閣議決定は慣例的に全会一致で行われ、可決された法律案は、内閣総理大臣によって国会に提出されます。
4. 国会における審議
内閣または国会議員により発議(提出)された法律案は、衆議院・参議院において審議されます。どちらの議院へ法律案を提出しても構いません。
なお、国会議員が法律案を発議するには、衆議院においては議員20人以上、参議院においては議員10人以上の賛成が必要です(ただし予算を伴う法律案については、衆議院で議員50人以上、参議院で議員20人以上。国会法56条1項)。
実務上、法律案の審議はまず議長が委員会へ付託し、委員会での審議を経て本会議に移行します。本会議では、出席議員による審議を経て採決が行われます。
5. 法律の成立
法律案は、以下のいずれかの場合に法律として成立します。
衆議院・参議院の両方で可決された場合(日本国憲法59条1項)
衆議院で可決し、参議院で否決された後、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再可決された場合(同条2項)
☞再可決を除き、両議院での議決は出席議員の過半数で行われ、可否同数の場合は議長の決するところによります(日本国憲法56条2項)。
成立時点で法改正の内容が確定しますが、まだ改正法に効力が生じるわけではありません。この後、公布・施行のプロセスが完了して、初めて改正法が効力を持ちます。
6. 成立した法律はどのように公布される?
成立した法律は、最後に議決をした院の議長から内閣を経由して、天皇に奏上されます(国会法65条1項)。内閣による奏上後30日以内に、天皇によって法律が公布されます(日本国憲法7条1号、国会法66条)。
「公布」とは、成立した法律を広く一般に周知させるため、国民が知ることのできる状態に置く(=公示する)ことです。法律の公布は官報(政府の機関紙)によって行われ、現在では「インターネット版官報」でも正式に公開されています。 これにより、企業や市民がオンラインで最新の法令情報を即時に確認できるようになりました。法律の公布にあたっては、法律番号が付され、さらに主任の国務大臣の署名、および内閣総理大臣の連署がなされます。
7. 成立後、法律はいつから効力を持つ?
成立した法律の施行日は、附則において定められます。法律では大まかな期間だけを定めて、具体的な施行日を定めず、後日政令で施行日を決定する場合もあります。
施行日が到来すると、その時点で改正法が効力を生じます。
法改正の所要期間は?
法改正の所要期間は、改正法の目的や内容などによって変わります。重要かつ大規模な法改正については、法律案の作成だけでも数年単位の期間を要します。一方、緊急の社会課題に対応するための法改正については、極めて短期間のうちに法律案が準備されることもあります。
法律の成立・公布から施行までの期間についても、法律の内容によって個別に決められます。多くの場合、公布から6カ月~1年以内の時期に施行されますが、影響力が大きい大規模な法改正については、公布後2年から3年程度の準備期間が設けられることもあります。
まとめ
デジタル化の進展に伴って社会の変化が加速している昨今では、大規模な法改正が頻繁に行われています。今後も同様の流れが続くでしょう。そのため、企業は自社の事業に関連する法改正の動向について、常にアンテナを張っておき、臨機応変に対応できるようにしておくことが大切です。Docusignは、契約・文書管理のデジタル化を支援し、頻繁に行われる法改正にも柔軟に対応できる仕組みを提供しています。最新の法制度に合わせて運用を見直すことが、コンプライアンスと業務効率の両立につながります。
ゆら総合法律事務所・代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。1990年11月1日生、東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当した。2020年11月より現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。




