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石から紙、そしてデジタルの時代へ。日本と世界の歴史を紐解く契約書トリビア

安達 智洋
安達 智洋シニア・コンテンツ・マーケティング・マネージャー
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契約によって交渉の成果をまとめ、両者の合意に形を与えることには、時代ごとに、また社会の状況によって特有の苦労があります。そして契約の形はその時代や社会の状況を映すものでもあります。今回は、石から紙へ、さらに電子契約によるデジタルデータへと大きく変貌を遂げた契約の歴史をご紹介します。

目次

契約の歴史 1

契約によって交渉の成果をまとめ、両者の合意に形を与えるということには、時代ごとに、また社会の状況によって、特有の苦労があります。そして今の時代でも、契約締結に至るまでの道のりは長く、多くの手間がかかっていることでしょう。

さて、今回はビジネスにまつわる契約の話からは離れて、ちょっと変わった角度から契約書について考えてみたいと思います。歴史を紐解き、また海外に目を向ければ、契約によって約束に形を与えることには、さまざまな苦労が伴うことがわかってきます。

紀元前の契約「書」は石碑で作っていた? 紀元前トルコの契約書

契約の歴史 2

そもそも人類の歴史において、もっとも古い契約書がなにかご存知でしょうか?

今やあらゆる商取引に欠かすことのできない契約書ですが、歴史をたどると、なんとそのルーツは紀元前にまで遡ることができます。約 2,200 年前、トルコの古代都市「テオス」の遺跡からは、数年にわたる調査で、契約書にあたる石版・石碑が多数発見されました。

こうした契約文化を裏付ける遺跡が多く発掘されていることは、官僚による統治がすでに行われていた証しとして、考古学の研究対象として注目を集めているのだそうです。

石版・石碑に記されている契約の内容には、土地のリース契約や、労働者の扱いなどに関するものが多く見つかっています。不動産契約、そして労働契約と、意外にも現代の契約で重視される分野と似通ったものも多いのだそうです。

決して風化することのないよう深く彫り込まれた文字盤は、今なお、解読可能であり、当時の社会の仕組みを理解するための貴重な史料となっているようです。

この 2,200 年もの間に、契約書は石から紙へと変化。さらに電子契約によるデジタルデータへと大きく変貌を遂げています。しかし、媒体が時代とともに変わっていく一方で、人が集まる社会で契約が必要とされる場面は、ある意味ずっと変わっていないのかもしれません。

土地を担保にしたローンで3通の証書?徳政令がリスクだった室町時代

ところで、契約の歴史という点でいうと、日本にも興味深いエピソードがあります。

今から 500 年ほど昔、室町時代の日本では、疫病や災害など、さまざまな理由で政治が立ち行かなくなると、徳政令、すなわち借金を帳消しにする法がたびたび発令されてきました。

これは、返済不能な借金に苦しむ人にとって大きな救済となる一方で、債権の放棄を命じられる人にとって大きなリスクであったことが想像できます。そのリスクを回避するためにも、契約に関して当時なりの工夫がなされていたようです。

土地を担保とした借金の場合、のちに徳政令が発令されてしまえば、借金は帳消しとなるため、貸主は安心して取引に臨めません。そこで、契約の立て付けをお金の貸し借りではなく、売買と見立てるために、あえて 3 種類の証書を発行していたそうです。

具体的には、土地を売買したことを示す「売券」、そしてお金を預けたことを示す「預かり状」、さらには徳政令が発令されても土地の返還を求めないことを約束した「徳政落居状」です。つまり、借金は徳政令によって帳消しとなるため、借金ではなく、あくまでお金を預けただけ、そして土地所有権の移転はあくまで売買とすることにより、安心して契約関係を築くことができていたのです。

現代の感覚なら借用書は 1 通で十分と考えるところ、徳政令というリスクを抱えた室町時代では、3 通もの証書が必要となり、これは当時の感覚としても大きな手間だったそうです。

現代でも契約にかかる事務作業には面倒なものも多くありますが、室町時代の契約には、現代とはまた違った苦労があったことでしょう。

こんなところにまで契約書が?アメリカにおける婚前契約の文化

契約の歴史 3

視点を現代に移しても、海外の契約文化のなかには、日本とは大きく異なったものがあります。

たとえばアメリカが契約社会であることはよく知られており、結婚前に契約をすることも珍しくありません。

これは婚前契約(プレナップ)と呼ばれるもので、株や預貯金などの個人資産や、結婚後の収入についての権利関係を、あらかじめ明確にすることなどに用いられるのが一般的です。離婚した場合の慰謝料や、養育費などに関する取り決めを細かく定めるやり方もあります。

あまりこうした手法に馴染まない日本人の感覚からすると、権利関係を契約ではっきりさせるのは相手を信頼していないようで、後ろめたいかもしれません。一方、様々な背景や価値観を持つ人が集まるアメリカにおいて、契約文化も多様な形で普及してきたことは、よく指摘される通りです。こと結婚に関しても、契約書の取り交わしに抵抗感がないのは、これらの違いを乗り越えて、信頼関係を築く大変さをよく理解しているからかもしれませんね。

安心して契約関係に入っていくために必要なものとは

歴史を遡りながら、また国境をまたいで、現代の企業の担当者が行う日々の契約事務とは少し違った契約の話を紹介してきました。いつの時代も契約にはさまざまな手間や苦労がつきまといますが、その内容は、時代背景や社会状況を反映するものにも思われます。

紙がなかった紀元前のトルコにおける契約では、大きな石碑に文字を刻み、約束の内容を風化させないことが大きな課題でした。日本の室町時代では、徳政令によって突然社会の仕組みが大きく変わる(借金の帳消し)ことが契約上の大きなリスクでした。また現代アメリカの婚前契約(プレナップ)の文化は、深い信頼関係をつくっていく難しさを象徴するものにも思われます。

ビジネスで締結される契約の多くは、商習慣に沿ってやるべきことが決まっています。それらの大半は一定不変ではなく、時代とともに、また社会の状況によっても変化するものなのでしょう。

契約に伴う手間や苦労には、人と人とが歩み寄り、そして信頼関係をつくっていくことの難しさが色濃く反映されているのではないでしょうか。

まとめ

契約のあるべき姿は、その時代・その社会における人間同士の関係性によっても大きく変わっていきます。今後は、AI(人工知能)など新たなテクノロジーの浸透によって、契約が人や社会に安定をもたらす仕組みは、今後も変化していくことでしょう。

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参考:

安達 智洋
安達 智洋シニア・コンテンツ・マーケティング・マネージャー
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