2023年改正法施行!消費者契約法の基本にみる消費者保護の最新事情
消費者契約法は、消費者と事業者の間の取引において、弱い立場に置かれがちな消費者を保護するための法律です。本記事では、2023年6月に施行された改正法とともに、消費者契約法の基本を解説します。
消費者と事業者の間には、特に契約の際など、両者が持つ情報量や交渉力において格差が生じがちです。このような状況を踏まえて消費者の利益を守り、消費者と事業者の間の取引において、弱い立場に置かれがちな消費者を保護するために制定されたのが「消費者契約法」です。本記事では、消費者契約法の基本とともに、2023年6月に施行された改正法のポイントを解説します。
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消費者契約法とは
消費者契約法とは、消費者と事業者の間で締結される契約(=消費者契約)について、事業者による消費者の搾取を防ぐためのルールを定めた法律です。事業者は、消費者に対して取引に関する情報の質・量や交渉力で優位にあるケースが多く存在します。そのため、事業者が不当な勧誘を行ったり、不利益な契約条項を一方的に押し付けたりして、消費者を搾取する事態も懸念されます。
このような事態を防ぐため、消費者契約法では、消費者契約について消費者を保護するルールを定めています。
消費者契約法と民法の関係性
消費者契約法は、民法の特別法と位置付けられています。したがって、消費者契約法と民法の間でルールが異なる場合には、消費者契約法の規定が優先的に適用されます。
民法は契約自由の原則、すなわち当事者間の合意内容を最大限尊重するという考え方がベースにあります。しかし、契約の自由の原則を徹底すると、情報や交渉力の格差が原因で、消費者が事業者に搾取される恐れもあります。そこで消費者契約法では、民法のルールを一部修正することにより、消費者の保護を図っています。
消費者契約法と特定商取引法の関係性
消費者契約法と同じく、消費者を事業者の搾取から守るためのルールを定めているのが「特定商取引法」です。
消費者契約法は、すべての消費者契約に適用されるルールを定めていますが、特定商取引法は、トラブルが生じやすい特定の取引類型を対象として、消費者契約法よりもさらに手厚い消費者保護の規定を設けています。例えば、契約を一定期間ペナルティなしで解約できる「クーリングオフ」は、主に特定商取引法によって認められている制度です。
消費者契約法における主なルール
消費者契約法では、主に「消費者契約の取消権」と「消費者契約の条項の無効」に関するルールが設けられています(太字は、2023年6月施行の改正消費者契約法で新たに追加された規定)。
消費者契約の取消権
事業者によって不当な勧誘が行われた場合、消費者は消費者契約の申し込みまたは承諾の意思表示を取り消すことができます(消費者契約法4条)。
具体的には、以下の勧誘行為がなされた場合に消費者契約の取り消しが認められます。
重要事実の不実告知
不確実な事項に関する断定的判断の提供
不利益事実の不告知
不退去(退去を求められたにもかかわらず、退去しない)
退去妨害(退去しようとする消費者を妨害する)
消費者を任意に退去困難な場所に同行して勧誘
契約締結の相談を行うための連絡を、威迫する言動を交えて妨害
経験の不足による不安をあおる告知
いわゆる「デート商法」
判断能力の低下による不安をあおる告知
いわゆる「霊感商法」
契約締結前にサービスを提供、または目的物の現状を変更して、原状回復を困難にする
契約締結前にサービスを提供して、損失補償を請求する
消費者契約の条項の無効
消費者にとって、一方的に不利益な消費者契約の条項は、消費者保護の観点から無効とされています(消費者契約法8条~10条)。
具体的には、以下のいずれかに該当する条項が無効となります。
事業者の損害賠償責任の全部を免除し、または事業者に責任の有無を決定する権限を付与する条項
事業者の故意または重大な過失による損害賠償責任の一部を免除し、または事業者に責任の有無を決定する権限を付与する条項
事業者の軽過失による損害賠償責任の一部を免除する条項であって、軽過失に限定して適用されることを明らかにしていないもの
消費者の解除権を放棄させ、または事業者に解除権の有無を決定する権限を付与する条項
事業者に対して、消費者が後見開始、保佐開始または補助開始の審判を受けたことのみを理由とする解除権を付与する条項
契約解除に伴う損害賠償額を予定し、または違約金を定める条項のうち、事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分
金銭債務の不履行に関する損害賠償額を予定し、または違約金を定める条項のうち、元本に年14.6%の割合を乗じた額を超える部分
法令中の公の秩序に関しない規定を適用した場合に比して、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの
特に消費者契約法10条は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項(=不当条項)を一般的に無効化するものであり、施設・サービスの利用契約や不動産賃貸借契約など、さまざまな契約において問題になり得ます。
2023年6月施行の改正消費者契約法の変更ポイント
2023年6月1日に施行された改正消費者契約法では、消費者保護の強化を目的として、主に以下の点についてルール変更が行われました。
契約取消事由の拡充
契約条項の無効事由の拡充
事業者の努力義務の拡充
変更点①|契約取消事由の拡充
消費者が消費者契約を取り消せる場合として、新たに以下の3つが規定されました。
消費者に対して勧誘することを告げずに、任意に退去困難な場所に同行した上で勧誘する行為(消費者契約法4条3項3号)
契約を締結するか否かにつき、他の人に相談するために連絡したい旨の意思を消費者が示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて連絡を妨害する行為(同項4号)
契約締結前に目的物の現状を変更して、原状回復を困難にする行為(同項9号)
変更点②|契約条項の無効事由の拡充
無効になる消費者契約の条項として、新たに以下の1つが規定されました。
事業者の軽過失による損害賠償責任の一部を免除する条項であって、軽過失に限定して適用されることを明らかにしていないもの(消費者契約法8条3項)
変更点③|事業者の努力義務の拡充
消費者契約に関する事業者の努力義務として、新たに以下の5つが規定されました。
消費者の知識と経験に加え、年齢や心身の状態も総合的に考慮した上で、消費者契約の内容について必要な情報を提供すること(消費者契約法3条1項2号)
定型約款を内容に含む契約の締結を勧誘する場合、定型約款の表示請求を行うために必要な情報を提供すること(同項3号)
消費者の求めに応じて、解除権の行使に関して必要な情報を提供すること(同法4号)
消費者による契約解除に伴い、消費者に対して損害賠償または違約金を請求する場合に、消費者の求めに応じて金額の算定根拠を説明すること(同法9条2項)
適格消費者団体の各種開示要請に応じること(同法12条の3)
【事業者向け】消費者契約法に関する注意点
消費者向けに商品やサービスを提供する事業者(=BtoC事業者)は、消費者契約法に関して以下の2点に特に注意する必要があります。
1. 不当な勧誘行為をしない:消費者の自由な意思決定を阻害する不当な勧誘を行うと、後に消費者契約が取り消されるリスクがあります。不当な勧誘に当たる行為を具体的に列挙した勧誘マニュアルを策定し、従業員に対して周知を図りましょう。
2. 契約に不当条項を定めない:消費者の利益を一方的に害する条項を定めていると、その条項が無効となり、契約内容が予想外に変更されてしまうリスクがあります。直近の法改正を踏まえて、自社で利用している契約書のひな形などを見直しましょう。
消費者と事業者の間の契約については、消費者契約法に基づく特別なルールが適用されます。事業者は、不当勧誘と不当条項に関する消費者契約法の規定を正しく理解し、コンプライアンスの徹底に努めることが重要です。
【消費者向け】被害に遭ってしまった場合の相談窓口
消費者が事業者との契約トラブルに巻き込まれた場合は、以下の窓口などへ早めに相談するのがよいでしょう(一部のサービスは有料での提供となります)。
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ゆら総合法律事務所・代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。1990年11月1日生、東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当した。2020年11月より現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。
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