「脱ハンコ」時代に印鑑証明はなぜ必要なのか?
「印鑑登録証明書」の存在は広く知られていますが、具体的にどのような効果を持ち、どのようなシーンで利用されるのかを知っている方は少ないのではないでしょうか。そこで本記事では、印鑑証明の効果や利用シーン、そしてなぜ行政手続きで必要とされるのかについて解説します。
2020年、多くの注目を集めた政府による「脱ハンコ」の推進。従来、行政手続きで必要だった押印のうち、約99%が廃止され、確定申告や婚姻・離婚届の手続きなどでハンコが不要となります。しかし、一方で、83件の行政手続きでは、押印が継続されることも決まっています。この83件のうちの多くは、「印鑑登録証明書」が求められる手続きです。印鑑登録証明書は個人、法人問わず、重要な契約や申請などの際に必要となります。そこで本記事では、印鑑登録証明書の効果や利用シーンなどを解説し、なぜ今後も行政手続きで印鑑登録証明書が必要とされるのかについて考察します。
印鑑証明とは? 具体的な効果は?
印鑑登録証明書とは、公的機関がハンコの所有者を証明する書類です。契約書や申請書に押された印影が、書類の作成者が所有するものと一致していることを証明する効果があります。そのため、印鑑登録証明書を取得するには、公的機関へのハンコの届出が必要になります。個人の場合、各市町村に届け出を行い、法人の場合は設立時に法務局への登録が義務付けられています。このとき登録するハンコが実印です。
つまり、印鑑登録証明書は、実印が必要な契約や申請の書類が、実印の所有者によって作成されたことを担保する役割を果たします。
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自動車の購入や不動産登記 - 印鑑証明の利用シーン
それでは、具体的に印鑑登録証明書は、どのようなシーンで利用されるのでしょうか。
身近な利用シーンとして、新車や中古車の普通車を購入する際が挙げられます。自動車を所有する際は、「所有権を明らかにするため」「行政が自動車を識別・把握するため」という2つの目的から、行政への自動車登録が義務付けられています(※1)。この自動車登録の際に、提出書類として印鑑登録証明書が求められます(※2)。
また個人が不動産を売却し、所有権を移転する際にも印鑑登録証明書が求められます(※3)。虚偽の申請により所有権が移転されてしまった場合、不動産の所有者は大きな不利益を被ります。そこで、売主側が所有権移転の意思を表し、虚偽の申請でないことを証明するため、法務局に印鑑登録証明書を提出します。
そのほか、公正証書を作成する際や、遺産を分割する際の相続税申告の手続きなどで、印鑑登録証明書が必要となります。
「脱ハンコ」でも印鑑証明が必要とされる理由
ここまで紹介しましたように、印鑑登録証明書は所有権の移転や行政への登録など、本人確認や意思の確認を厳格に行う必要がある際に用いられます。そうした手続きは、法令などに根拠が記されていることが多く、「脱ハンコ」が難しいとされています。
冒頭に触れた、政府による「脱ハンコ」の取り組みにおいても、押印が継続する83の行政手続きのうち、実に40が法令などによって、印鑑登録証明書の提出を義務付けられています。例えば、自動車登録の手続きについては、「道路運送車両法」という政令が印鑑登録証明書提出の根拠となっており、政府も「財産的価値の高い自動車の所有権の取得又は喪失に直接影響を及ぼすものであることから、所有権の公証のために厳格な本人確認を行う必要性が高(い)」と説明しています(※4)。
また、遺産を相続する際の相続税申告の手続きでも、政府は相続税法を根拠に「遺産分割協議の内容は相続税額の計算に直接影響することから、その内容が全員の真意に基づき成立したものであることを担保する措置が必要」としており、今後も印鑑登録証明書の提出を継続するとしています。
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法人設立時のハンコの登録が廃止予定。企業に求められる「脱ハンコ」とは?
行政手続きにおける「脱ハンコ」の取り組みは、書面主義や対面主義を見直し、不要な押印を削減することを目的としています。法令などに根拠を持ち、押印が必要な手続きに関しては、今後もハンコが用いられ、必要に応じて印鑑登録証明書が利用されることとなります。
しかし一方で、実印における「脱ハンコ」が進んでいるのも事実です。2019年12月に改正された商業登記法は、法人設立時のハンコの登録義務を廃止しており、2021年2月に施行が予定されています(※5)。
行政手続きの迅速化を図るうえで、「脱ハンコ」は重要なポイントです。今後も法改正などを通じて、さらなる行政手続きの簡素化が期待できます。
そうした流れの中で、企業活動においてもますます「脱ハンコ」が進んでいくでしょう。法的な要請から押印が求められる書類や業務も存在しますが、「脱ハンコ」は無駄な作業を削減し、また業務全体を見直すきっかけにもなり、それ自体が有意義な取り組みだといえます。完全な「脱ハンコ」はハードルが高い、段階的に「脱ハンコ」を進めたい場合、たとえば承認の印(しるし)として印鑑の使用を継続すると判断した場合には、電子印鑑を活用して承認プロセスをデジタル化し、効率化を図ることも一つの対策と言えます。
無駄な押印が習慣化していないか。どの業務で押印を廃止し、どの業務で継続するべきか。
行政手続きにおいて押印の仕分けが行われたように、企業にとってもまた、業務の効率化を実現していくために「脱ハンコ」が重要なポイントになるでしょう。
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