署名を見極める筆跡鑑定とは?プロの技術と鑑定のポイントをわかりやすく解説
文字のわずかな癖や特徴から同筆かどうかを判断する筆跡鑑定。今回は筆跡鑑定で着目するポイントや検査方法、筆跡鑑定人の資格など、知られざる筆跡鑑定の裏側を紹介します。また、よく混同されがちな筆跡診断士との違いについても解説します。
文字のわずかな癖や特徴から同筆かどうかを判断する筆跡鑑定。実際にはどのような方法で鑑定が行われているのかご存じでしょうか。筆跡鑑定といえば、目視で確認する伝統的筆跡鑑定が主流でしたが、科学技術の発展に伴い、分析機器を使った検査も登場しています。今回は筆跡鑑定で着目するポイントや証拠能力、筆跡鑑定人のキャリアパスなど、知られざる筆跡鑑定の裏側を紹介します。また、よく混同されがちな筆跡診断士との違いについても解説します。
そもそも筆跡鑑定に証拠能力はあるの?
筆跡鑑定は文字の癖や特徴から筆跡者を特定するというもので、理屈自体は難しいものではありません。映画や刑事ドラマなどでは、この筆跡鑑定を用いて犯人の筆跡かどうかを鑑定するシーンが時々登場します。
しかし、筆跡の癖という少し曖昧なものを、証拠として認めても問題ないのかと疑問に思う人もいるのではないでしょうか。筆跡鑑定の証明力については、意見の割れるところでありますが、証拠として認められるケースもあります。参考になる判例として、 昭和40年2月21日に最高裁が下した判決を紹介します。
同裁判では、脅迫文を書いたのは被告人であるという原告の主張に対し、被告人が筆跡鑑定では証拠として不十分であると反論したため、筆跡鑑定の証拠能力が争点となりました。裁判官は判決に際して、伝統的筆跡鑑定は鑑定人の経験と感に頼る部分があると筆跡鑑定の証拠力の限界に言及しつつも、同鑑定が非科学的、かつ不合理で鑑定人の主観に過ぎないもの、とも言えないと述べています。
目視による筆跡鑑定では、人の感を頼りにするため、全面的に肯定するのは危険という意見もあります。ただ、全く無意味なものとも言えず、過去の判決においてもある程度の証拠能力はあるものと判断されているようです。
署名の筆跡鑑定はどうやるの?鑑定の裏側を紹介
筆跡鑑定の方法には、「目視で確認する方法」と「科学技術を活用した方法」の2つがあります。
目視での鑑定では、熟練した鑑定人が文字の癖や特徴を見つけ出して、文書を比較しながら同一人物による筆跡なのかどうかを判断します。このように人の目で文字の特徴を見出す鑑定手法は伝統的筆跡鑑定法と呼ばれています。
科学技術を駆使した鑑定法では、顕微鏡やマイクロスコープ、筆圧検出器、筆跡鑑定支援ソフトなどを用いて筆跡の特徴を数値化して、筆跡の類似度合を客観的に比較・分析します。
比較するポイントとしては、文字の重心座標や太さ、横幅、縦幅などがあります。これらの値の平均値や偏差を求め、鑑定対象の文書の文字に対しても同様の値を算出して数値を比較するのが、機器やソフトを用いた鑑定の大まか流れとなります。
筆跡鑑定人はどこを見ている? 鑑定で重要な4つのポイント
筆跡鑑定人は文字の「配置」「筆圧」「筆順」「偽筆」の4点に注意しながら鑑定を進めていきます。
文字の「配置」は人によって千差万別です。人によっては文字同士の間隔が広い場合もあれば、スペースに対して文字の大きさが小さいこともあります。この配置の癖は筆跡者本人かどうかの手がかりになります。
文字を書く際の「筆圧」にも人によって違いが見られます。ただし、筆圧の強さを比較しただけでは筆跡者特定にはつながりません。筆圧は使用する道具や文字を書く際の姿勢、環境によって変わるためです。したがって、筆跡鑑定では単純に筆圧を調べるのではなく、筆圧が強い部分、弱い部分の傾向から筆跡者の癖を掴みます。
「筆順」も癖が出やすい部分であるため、鑑定の際によくチェックされます。文字によっては正式な書き順とは異なる手順で書かれることが多いものがあります。筆順を見る際は、そのような文字が重点的に調べられます。
「偽筆」とは別の人の文字に似せて書いた文字を意味します。偽筆の場合、他者の特徴を捉えた文字となっているので、類似点だけに着目していると見逃しかねません。そのため、偽筆の可能性を考慮した鑑定が必要になってきます。偽筆かどうかは線の歪みなどといった文字全体の不自然さで判断できます。
筆跡鑑定人は誰でもなれる?
筆跡鑑定のキャリアパスは、科捜研などで鑑定スキルを身につけた後に独立するのが一般的なようです。筆跡鑑定人は筆跡鑑定士と呼ばれることもありますが、厳密には士業ではないので活動するのに特別な資格は必要はありません。したがって、名乗りさえすれば、誰でもすぐに筆跡鑑定人になれるということになります。
しかし、筆跡鑑定人になることと筆跡鑑定で生計を立てることはまた別の話です。筆跡鑑定で生計を立てている人を筆跡鑑定人と定義するのであれば、筆跡鑑定人になることは非常に困難な道のりといえます。というのも、現在活躍する筆跡鑑定人の多くが科捜研などで実務経験を積んでおり、仕事を獲得するには同業者のつながりが重要になっているからです。また、鑑定スキルをどうやって身につけるかといった問題もあるでしょう。
民間講座でスキルを養う方法
前述の通り、筆跡鑑定人は士業ではないので公的な資格はありませんが、筆跡鑑定人養成講座と呼ばれる民間の講座はあります。このような民間講座で鑑定スキルを身につけて、筆跡鑑定人へと転身するという方法も考えられます。しかし、講座を通してスキルを習得できたとしても、仕事をどこから獲得するのかという問題は残るため、厳しい道のりであることには変わらないでしょう。
混同しやすい筆跡診断士との違い
筆跡診断士という仕事もありますが、こちらは筆跡鑑定士とは業務内容が大きく異なります。筆跡診断士は筆跡からその人の心の状態や性格などを読み取るのが仕事です。姓名判断などと同じく占いに近い性質のものと捉えるとよいでしょう。筆跡診断では、人の深層心理は筆跡に表れるとしており、逆に筆跡を直すことで心変わりするという考えがあります。そのため、筆跡診断士は筆跡から心理状態を読み取るだけでなく、筆跡の改善も併せて行うのが一般的なようです。
伝統的手法とテクノロジーの共存
これまでは熟練の経験と技術により支えられていた筆跡鑑定ですが、科学技術の発展に伴い、より精度が高く、客観的な検査が可能になりつつあります。とりわけ、AI関連の技術が筆跡鑑定に大きな影響を与えるという見解はよく見受けられます。
しかしながら、従来の伝統的筆跡鑑定がすぐになくなるとは限りません。両者ともに得手不得手があると考えられるので、しばらくは互いに補いながら共存していくと考えられます。
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参考:
法科学鑑定研究所 「筆跡鑑定人の選び方」および「筆跡鑑定のよくある質問」
比較筆跡鑑定 田村鑑定調査 「筆跡鑑定の精度を上げる条件」「筆跡鑑定人になるには」および「筆跡診断士とは?仕事の内容から関連する資格まで」
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